2022-01-01から1年間の記事一覧
「今日の夢は最悪だったんだ」 突然クロがそんなことを言い出した。 「へ?どうしたん」 「君と一緒に暮らしてるってのは現実と変わらなかったんだけれど。突然君が白髪のおじいさんを連れてきて。それまでは二人で楽しく話してたのに、急に真剣な顔になるん…
「今日はたこ焼きを食べに行くんだ〜ふふ」 と上機嫌なクロ。 学校の友達と出かけるのだろう。 たこ焼きか。 しばらく食べてないなあ。 東京にいた時すらなかなか出会えず胸を焦がしたものだ。 スペインで本場の味に出会えるのかは分からないが、あの味が恋…
「行かない理由が俺に気を遣うからならその判断はやめてほしい。俺のことは一切気にしなくていいから。」 「いや、だからそもそもそんなこと言ってないし。なんならごめんやけど微塵も考えへんかったわ。私の話聞いてなかったやろ。」 「聞いてたよ。だから…
最近はすっかりホリデームードの街並み。 スーパーは買いだめの人々が押し寄せ、品薄になっていたり。 同居人の一人も里帰りするらしく2週間家を空けるらしい。 道路を歩きながらふと見上げると、ベランダにちょっとしたイルミネーションが施されていたり。 …
本音と建前 日本の文化というか習性として世界に浸透しているものだと思う。 実際にその言葉自体は知らなくても、外から見た日本人のイメージを上げてもらうと 「周りを尊重する文化」 「直接的な表現をしない」 といったような答えが返って来る確率は高い。…
あったかいの
12月。 スペインの街はすっかりクリスマスモードだ。 きっと日本も今頃各地でイルミネーションが煌めいているのだろう。 「見て。」 夜ご飯を終えてベランダで一服しているクロにそう言われ外を見ると、ちょうど道路を彩る光の装飾が取り付けられているとこ…
どこかに出掛けてから家に帰ってくるとき、割と高頻度でちょっとした手土産を買って帰ってくる。 それがクロだ。 そしてここ最近は、その頻度がいつにも増して高い。 今週だけでいえば、100%である。 今日は、そんな小さなお土産たちをせっかくなので紹介し…
ヨーロッパの人たちはお風呂に毎日入らない。 そもそも、日本人以外はほとんどシャワーで済ます国がほとんど。 そんな噂を耳にしたことはないだろうか。 私も実際にスペインに来る前は、お風呂事情にかなり不安を抱いていた。 お風呂に入るという習慣がない…
海外旅行をしたことがある人ならば、誰でも一度は経験したことがあるのではなかろうか。 長距離フライトの際に配られるポーチの中。 宿泊先の洗面台。 アメニティを用意していてくれていることは大変ありがたい。 ありがたいのだが。 何しろ歯ブラシがデカす…
唐突だけれど、告白します。 私は、クロの毛を剃るのが好きだ。 理由は、なんだかスッキリするから。 以上。 クロは自身の毛が気に入らないらしく、将来は脱毛をしたいとも言っていた。 今は肌寒くなり肌を露出する機会が減ったので頻度は落ちたが、自分でた…
クロが散髪に行く。 今の髪型を整えるだけにするか、新しいスタイルに挑戦するか。 決定権は私にあるとのことだったので、私は挑戦に一票を投じた。 「見たことないから、見てみたい。」 その私の鶴の一声で、クロの方向性が決定した。 早速電話をして空きを…
キッチンで食材の整理をしながら、何げない会話をしていた。 突然、思い立ったかのようにクロが言った。 「君は俺の食材をちょっとずつ食べて、ちょっとずつ俺のお金を使ってる!」 誤解がないように断っておくが、食材の共有を提案してきたのはクロの方から…
今日はタコスを作ると決め込んで、買い物をした。 一度友達の家で振るまってもらってレシピも教わったのだ。 めんどくさがりの私流にかなり工程を簡素化して、スペインに来てから二、三回作っている。 タコミートの元になるサルサはスーパーで簡単に手に入る…
やっぱり。 生理が始まった。 昨日の情緒不安定もきっと生理のせいに違いない。 元々生理痛はないタイプだ。 生理前は情緒が乱れたりとんでもなく眠たくなることはあっても、痛みに苦しめられることは思い返してもほとんどない。 しかし、季節の変わり目で自…
久々にお洒落をしたけれど、特に行き先は決まっていない。 せっかくなので、近所を散策でもしてみよう。 家の周りというのは、決まった道以外通らなくて案外未開拓だったりする。 Google mapに頼らずに、直感で右折と左折を繰り返す。 しばらく歩くと、可愛…
クロと外にお出かけすることは、滅多にない。 そもそもクロがインドア派なこと、今日本への渡航に向けて節約中であることから外食の機会はゼロに近い。 一方、私は世界一周を試みたこともあり(コロナで中断したが)、アクティブな人間だと思われることが多…
その日のクロはご機嫌だった。 ベッドに転がって携帯をいじっている私を邪魔しに来たのかと思えば、おもむろに指やお腹を噛まれる。 前からくすぐられたりすることはしょっちゅうだったが、噛まれるとは思っていなかった。 そもそも、潔癖症じゃなかったけか…
少しずつ冷静さを取り戻したのか、クロがポツリと言った。 「近い間柄の人に対して、過剰に心配してしまうことがあるんだ。自分でも良くないと思ってる。直したいんだ。」 私はクロがやっと何事も跳ね返す話を聞かないモードの武装を解いたことに少しホッと…
「綺麗、だなんて。絶対君のこと狙ってるよ。」 そう言うクロは、なんだか目が潤んでいるようにも見えた。 いや、部屋が暗かったので私の思い違いかもしれない。 とにかく、切に訴えるような瞳に、庇護欲が湧いた。 咄嗟に言い訳をしなければならないような…
その日、日課のアニメを見る時間になってもクロの態度がおかしかった。 なんだかそっけない。 いつもならことあるごとに部屋に顔を出し、徐に私に構っては台風のように去っていくのにそれもなかった。 何か機嫌をくすねるようなことしたかな、と目新しい記憶…
内覧者が後をたたない様子を見かねて、クロは大家さんと直接話をすると言った。 彼の主張をまとめるとこうだ。 そもそも他人と共同生活をすることが苦手なクロにとって、気の許せない人と暮らすことは耐えられない。 おそらく大家はお金を欲しがっているので…
それもまた突然だった。 大家さんから連絡があり、今日の夕方に男の子が一人下見に来るから、家にいたら鍵を開けてくれないかとのことだった。 私がその通知に気づくよりも前にクロが部屋に押しかけてきた。 メッセージを確認した時には、クロがすでに大家さ…
それからたまに拗ねたり機嫌を取り合ったりしながら、日々を過ごした。 前と変わらず食材を分け合って。 たまに二人分作ったり、宅配でハンバーガーを一緒に注文したり。 アニメは相変わらず日課だ。 クロからハグをしてくることは無くなったが、スキンシッ…
「オンラインレッスンを受けることにした!」 嬉しそうにクロがそう報告してくれた。 以前コンサルタントを頼んだ相手が日本語の講師もしているらしく、それを受講するのだそうだ。 一般的な日本語能力試験に沿った内容が基本だが、クロが取得を目指す特定技…
いつの間にか夢について語り合っていたクロと私。 気づけば、また二人で笑い合っていた。 不思議だ。 離れているよりも、こうして笑い合っている方が心地良い。 友達だとか、恋人だとか、肩書きに縛られていたけれど。 そのどちらに当てはまらない関係があっ…
クロと話しながら、私は自分がクロに頼ってしまっていたことに気づいた。 私は、誰かに求められたかったのかもしれない。 求められることで、自分の存在意義を見出していたのだ。 だからこそ、相手に縋るようになり、相手の機嫌を伺うばかりになってしまって…
扉を閉め切って、一人でタッパに詰めた作り置きを食べながら。 頭の中でぐるぐるといろんな感情が混ざり合う。 はじめは悲しみだった。 クロに突き放された悲しみ。 私が友達にはなれないから、もういっそ顔も見たくないと言った時、クロはあらかじめ用意し…
なんとか震えを抑えて、絞り出すように言葉を紡いだ。 「私は、そんなことできひん。何事もなかったように、これからクロに笑える気がせえへん。できることなら、もう明日から顔も見たくない。そうでもせな、気持ちは整理できひん。顔を合わせて、平気でおら…
思いの外伝えたい言葉はすぐに定まった。 心の中にうずくまっていた感情は、どこかで外に出る機会を待っていたのかもしれない。 メッセージで送るとあまりにも長い。 けれども、私の本当の、今の気持ちだ。 そして、なるべく落ち着いて。 冷静に、重くなりす…