2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧
最近は、毎日のようにハグをしている。 私からすることもあるけれど、クロからしてくることも多い。 例えば私が落ち込んでいるときや気分を損ねた時。 ごめんね、とか、大丈夫だよ、みたいな意味を含んでいるのであろうぬくもりで包んでくれる。 その度に、…
クロは、どこか買い物に行った時とか私に小さなお土産を買って着てくれる事がある。 菓子パンだったり、ドーナツだったり。 基本的に食べ物。 なぜなら、私が食べることが好きなことを知っているから。 「食べ物があると、君はハッピーだね。」 と私が喜ぶ姿…
「実はさ、クロの星座調べたねん。」 クロのほうきを奪って、今度は私が床を吐きながら言葉を放った。 「前に誕生日と星座いってたから。私とクロは多分考え方が全然違うからさ。でも、落ち込んでるの見たらほっとかれへんくて。そういう時水瓶座にはどうい…
私に話してくれたってことは、多少整理ができたのだろう。 安堵する気持ちと同時に、悲しくもなる。 私が状況を良くしてあげられるわけではなくて。 またかける言葉が見つからない。 ただ、これ以上悲しむ必要はないんだよって、包み込んであげられたら。 こ…
次の日、朝のうちにスーパーに行こうと家を出た。 スペインも最近は朝晩はだいぶ涼しくなったが、日が当たるとまだ暑い。 日陰を選んで歩いてスーパーまで向かった。 「え。閉まってる。何で?」 今日は平日だ。 いつもならもう開いている時間のはずだけれど…
いつもならすきあらば冗談を言ってくるクロが無言なことで、家には静けさが漂っていた。 これまでを思い出して、彼のありがたさを感じた。 いつもなんだかんだクロから話しかけることがほとんどだったんだ。 毎日が笑顔で溢れていたのは、クロのおかげだった…
その二日間で、クロの笑顔を見たのは一度きりだった。 塞ぎ込む彼があまりにもかわいそうで、自分のことを棚に上げてどうにかしてあげたいと思った。 しかし、話し相手には私のスペイン語能力では十分に相談にのってあげられない。 彼が不安を吐露する相手と…
ここ最近は、どうしても寝る前にクロとのことばかり考えてしまう。 言い過ぎたかな、とか。 どう考えてるのかな、とか。 そして、最終的に負担をかけたくない、という結論に落ち着いた。 昨日話をした時、クロは本当に疲れきった顔をしていた。 私との会話に…
「どういうこと!?」 女の子と私の反応がシンクロする。 クロの悲痛な叫びをまとめるとこうだ。 彼は清潔感に欠けている。 家に対しても不平不満ばかり。 すぐに部屋にこもり大家と電話で話している様子。 とにかく、仲良くやれそうにない。 まだ対面してい…
それは本当に予想だにしなかったことだ。 クロと一緒にいるとどうしても意識してしまうので、物理的に離れようと考えた。 そうだ、涼しくなってきたし久しぶりに中心地へ出掛けてみよう。 そう決めて、めかしこんで家を出た。 40分くらいの道のりも、せっか…
「俺は今、将来を約束する付き合いはできない。」 彼は何度もそう口にした。 「もし仮に君とこのまま関係を続けたとしよう。先のことを考えすぎず、今を楽しむつもりで。でも確実に、お互い気持ちは今よりも遥かに強くなるだろうね。君のビザが切れて帰国し…
少しは冷静になった頭で、もう一度クロと話をした。 まずは彼のビザについて。 日本に住むためにクロが検討しているビザは3つ。 1 ワーキングホリデービザ 2 学校卒業後に取得するビザ 3 配偶者ビザ 現在は2の取得を目指して学校に通っているわけだが、卒業…
もしかすると、私は過度に楽観的すぎるのかもしれない。 どうにかなるやろう。 彼の将来の話を聞いても、そう思った。 その時がきたら必要な手段を取ればいい。 いざとなれば、なんとでもなる。 本気でそう思っていた。 けれど、向こうはそれ以上に具体的な…
「結婚っていうのは、1番簡単な手段だ。望まない大学に通う必要もなく、ワーキングホリデーみたいに一時的なビザだからって就職で不利になることもない。」 でも、と言いたげな顔だった。 案の定彼は続けた。 「結婚して5年間日本に住めば、永住権を得られる…
次の日寝て起きたら、かなり冷静になっていた。 昨夜は嫌な夢を二種類も見たが、やはり睡眠の効果は偉大だ。 そういえば、私は基本的に寝れば嫌なことも忘れるタイプの人間だった。 落ち着いて、もう一度頭を整理しよう。 昨日の記憶を蘇らせる。 昨日は、世…
「胡椒?」 フライパンの中身を除いて、クロが問いかけてきた。 今日までのひき肉を消費すべく、ピーマンならぬパプリカの肉詰めを作っているところだった。 匂いで胡椒を使ったことに気づいたらしい。 「そうやよ。肉詰め、知らん?スペインにはないんかな…
「一週間ちょっとでこれだよ。もしもこの先8か月、何も話し合わずに突然別れがきたら、もっと辛いよ。」 8という数字が咄嗟に放たれたことから、何度も考えたんだろうということが読み取れてまた苦しくなった。 いつから考えていたのだろう。 こんなことを、…
本気で好きになれば別れが辛くなるから、恋人は作らない。 そう言っていたのは彼だ。 最初からわかっていたはずだ。 じゃあなんで。 「じゃあなんで、始めたん。」 「つまり、はなから遊びのつもりで私と過ごしてたん?キスも、ハグも全部。」 ぽつり、ぽつ…
私たちの関係についてどう思っているのか。 それは私も聞きたくて、でも聞けずにいたことだ。 「最近はなんか態度が変やったから、私も聞きたいと思ってた。でも、どういう意味?」 「君は、真剣な関係性を求めてる?」 「うん。遊びのつもりはないけど…もし…
私はその日をずっと心待ちにしていた。 なんてったって、出不精なクロが私とお出かけしてくれる最高の一日だ。 その日の夜はセビージャの美術館や多くの建物が無料で訪問することができ、美術館好きの私にとっては行かない理由がないイベントだった。 直前ま…
一向に既読がつかないチャット履歴を何度も更新しては、肩を落とす。 やっと、ちょっとだけこの思考を止められそうだったのに。 結局私は自ら不安になっているんじゃないか。 「悲劇のヒロインぶってもあかんで。」 子供の頃に父親にそう叱られたことがある…
もともとクロと私はメッセージのやり取りがほとんどない。 一緒に住んでいるので直接話すほうが早いからだ。 チャットの履歴にも大した会話は残っていない。 誰もいない家。 きっと買い物にでも行ったのだろう。 すぐに帰ってくるはずだ。 でも念のためどこ…
いつからだったのか正確には思い出せない。 でも、それは私の目には明らかだった。 あんなに甘えてきたクロが突然じゃれてこなくなって、意図的な距離を感じる。 私からハグをすると応えてはくれるけれど、どこかこわばった表情に見える。 気持ちを確かめ合…
クロは出不精だ。 自他ともに認めるインドア人間である。 好きなものは家で一人でできるものがほとんど。 例えばアニメを見たり、アニメを見たり。 おかげで今日もまた彼のおすすめのアニメを夜中に見せられているわけだが。 特段嫌な気もせず、これはこれで…
お互いの気持ちが分かってから、クロは二人きりの時にとことん甘えてくるようになった。 時には、もう一人の同居人がいない隙を狙ってこっそりちょっかいを出してきたりもする。 ある時は、私がソファに腰掛けているときに、足元が見えないのを良いことに靴…
コンプレックスなんてものは、誰にでもあると思う。 私にもいくつかあるが、その一つが唇だ。 元々全身どこをとっても血色が良い方ではなく、唇も綺麗な血色ピンクとはほど遠い。 血色の良い唇に憧れて口紅を多重に塗り込んでは、色素沈着するという悪循環。…
私の部屋で二人きり、ベッドに腰掛けて何げない会話をしていた。 以前クロが自分で公言していた通り、彼はcariñosoだ。 いわゆる甘えん坊、でも甘えるだけでなく甘やかすのも好きなのだ。 二人になると途端にスイッチが入って、彼は子犬のようになる。 いや…
次の日、なんとなく恥ずかしくてクロの顔を見れない私。 もう一人の同居人が出かけて二人きりになっても、なんだかぎこちない。 昨日で、私たちの距離がどこまで縮まったのか、測りかねていた。 クロが買い物から帰ってきて、 「君が喜びそうなものを買って…
よし。 自分の気持ちに正直になろう。 気持ちは固まった。 この次に何が起こるかなんて分からないけれど。 言わなければきっと、後悔する。 これから毎日自分の気持ちを隠して彼と一緒に暮らすことはおそらく不可能だ。 それなのに、いざ彼を見つめて言葉を…
誘惑の仕方を教えてもらったところで、不安要素が残っていた。 「誘惑したはいいけど、相手に効かなかったらどうすればいいん。」 教わったのはどれも好意が相手にモロばれしそうなものばかりだ。 一世一代の覚悟で誘惑に踏み切ったものの、相手に引かれてし…