大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

悪循環

頭の中で嫌な想像ばかりしてしまって、自然に私の顔から笑顔が消えた。 クロはそんな私に気づいて、不安そうに顔を覗き込んでくる。 そんな優しさすら私の悲しみを増幅させて。 もういっそのこと冷たくしてくれればいいのに。 実はここ最近も時折寂しい感情…

結局

薄々気づいていた。 目の前に立ちはだかるモノ。 出くわす度に巧妙に避けて通って来たつもりだった。 けれど、この先へ進むにはいつか対峙しなければならないのだと。 ここ最近の平和な空気に少し絆されていたのかもしれない。 いや、自らその空気に身を隠し…

悲しいアタック

最近クロは、私のことをポケモンと言う。 そして、私が落ち込んだり悲しい顔をするたびに 「悲しいアタックだ!」 と言って私を笑わせる。 そして出かけた帰りに食べ物を買ってきては 「ハッピーになった?」 と聞いてくる。 「君にはハッピーでいてほしい。…

プラン

「2年間日本語を独学で勉強して、ワーホリビザで日本に行く。そこで、特定技能ビザの試験を受ける。そしてその前に、来年観光ビザで日本に行こうと思う。君はどう思う?」 クロにそう聞かれたけれど、どの立場で答えれば良いのか分からなかった。 私の感情を…

カレー

キーマカレーにハマっていた。 以前、挽肉が余った時に見つけたレシピだ。 汁気がないので保存にも向いていて、何より簡単に美味しくできた。 「今日、私カレー作るわ。」 クロにそう言うと、 「じゃあ俺の分も挽肉焼いてよ。工程の途中で分けてくれればいい…

道筋

クロがリビングでテレビを見ている時、これまでは興味がなくても一緒に見ることが多かった。 少しでも一緒にいたくて。 けれど、ここ最近はモヤモヤする感情に落とし前をつけようと。 これまでと違う行動を意識的にとっている。 興味のない内容の時や、気が…

間違い

「日本人の妻は、結婚した後に旦那以外の男と浮気をするって本当?」 「誰がそんなこと言ったん。」 クロが熱心に見ている日本在住のスペイン人のYouTuberがいる。 日本に住んで10年近い彼が、日本のあれこれを動画で話しているのだ。 その一環で、先ほどの…

ハグ

最近は、毎日のようにハグをしている。 私からすることもあるけれど、クロからしてくることも多い。 例えば私が落ち込んでいるときや気分を損ねた時。 ごめんね、とか、大丈夫だよ、みたいな意味を含んでいるのであろうぬくもりで包んでくれる。 その度に、…

お土産

クロは、どこか買い物に行った時とか私に小さなお土産を買って着てくれる事がある。 菓子パンだったり、ドーナツだったり。 基本的に食べ物。 なぜなら、私が食べることが好きなことを知っているから。 「食べ物があると、君はハッピーだね。」 と私が喜ぶ姿…

水瓶座

「実はさ、クロの星座調べたねん。」 クロのほうきを奪って、今度は私が床を吐きながら言葉を放った。 「前に誕生日と星座いってたから。私とクロは多分考え方が全然違うからさ。でも、落ち込んでるの見たらほっとかれへんくて。そういう時水瓶座にはどうい…

吐露

私に話してくれたってことは、多少整理ができたのだろう。 安堵する気持ちと同時に、悲しくもなる。 私が状況を良くしてあげられるわけではなくて。 またかける言葉が見つからない。 ただ、これ以上悲しむ必要はないんだよって、包み込んであげられたら。 こ…

祝日

次の日、朝のうちにスーパーに行こうと家を出た。 スペインも最近は朝晩はだいぶ涼しくなったが、日が当たるとまだ暑い。 日陰を選んで歩いてスーパーまで向かった。 「え。閉まってる。何で?」 今日は平日だ。 いつもならもう開いている時間のはずだけれど…

静けさ

いつもならすきあらば冗談を言ってくるクロが無言なことで、家には静けさが漂っていた。 これまでを思い出して、彼のありがたさを感じた。 いつもなんだかんだクロから話しかけることがほとんどだったんだ。 毎日が笑顔で溢れていたのは、クロのおかげだった…

爆発

その二日間で、クロの笑顔を見たのは一度きりだった。 塞ぎ込む彼があまりにもかわいそうで、自分のことを棚に上げてどうにかしてあげたいと思った。 しかし、話し相手には私のスペイン語能力では十分に相談にのってあげられない。 彼が不安を吐露する相手と…

回想

ここ最近は、どうしても寝る前にクロとのことばかり考えてしまう。 言い過ぎたかな、とか。 どう考えてるのかな、とか。 そして、最終的に負担をかけたくない、という結論に落ち着いた。 昨日話をした時、クロは本当に疲れきった顔をしていた。 私との会話に…

同居人2

「どういうこと!?」 女の子と私の反応がシンクロする。 クロの悲痛な叫びをまとめるとこうだ。 彼は清潔感に欠けている。 家に対しても不平不満ばかり。 すぐに部屋にこもり大家と電話で話している様子。 とにかく、仲良くやれそうにない。 まだ対面してい…

新たな展開

それは本当に予想だにしなかったことだ。 クロと一緒にいるとどうしても意識してしまうので、物理的に離れようと考えた。 そうだ、涼しくなってきたし久しぶりに中心地へ出掛けてみよう。 そう決めて、めかしこんで家を出た。 40分くらいの道のりも、せっか…

リアリスト

「俺は今、将来を約束する付き合いはできない。」 彼は何度もそう口にした。 「もし仮に君とこのまま関係を続けたとしよう。先のことを考えすぎず、今を楽しむつもりで。でも確実に、お互い気持ちは今よりも遥かに強くなるだろうね。君のビザが切れて帰国し…

ワンショット

少しは冷静になった頭で、もう一度クロと話をした。 まずは彼のビザについて。 日本に住むためにクロが検討しているビザは3つ。 1 ワーキングホリデービザ 2 学校卒業後に取得するビザ 3 配偶者ビザ 現在は2の取得を目指して学校に通っているわけだが、卒業…

楽観主義

もしかすると、私は過度に楽観的すぎるのかもしれない。 どうにかなるやろう。 彼の将来の話を聞いても、そう思った。 その時がきたら必要な手段を取ればいい。 いざとなれば、なんとでもなる。 本気でそう思っていた。 けれど、向こうはそれ以上に具体的な…

ビザの問題

「結婚っていうのは、1番簡単な手段だ。望まない大学に通う必要もなく、ワーキングホリデーみたいに一時的なビザだからって就職で不利になることもない。」 でも、と言いたげな顔だった。 案の定彼は続けた。 「結婚して5年間日本に住めば、永住権を得られる…

翌日

次の日寝て起きたら、かなり冷静になっていた。 昨夜は嫌な夢を二種類も見たが、やはり睡眠の効果は偉大だ。 そういえば、私は基本的に寝れば嫌なことも忘れるタイプの人間だった。 落ち着いて、もう一度頭を整理しよう。 昨日の記憶を蘇らせる。 昨日は、世…

キッチンでの会話

「胡椒?」 フライパンの中身を除いて、クロが問いかけてきた。 今日までのひき肉を消費すべく、ピーマンならぬパプリカの肉詰めを作っているところだった。 匂いで胡椒を使ったことに気づいたらしい。 「そうやよ。肉詰め、知らん?スペインにはないんかな…

「一週間ちょっとでこれだよ。もしもこの先8か月、何も話し合わずに突然別れがきたら、もっと辛いよ。」 8という数字が咄嗟に放たれたことから、何度も考えたんだろうということが読み取れてまた苦しくなった。 いつから考えていたのだろう。 こんなことを、…

止まらない涙

本気で好きになれば別れが辛くなるから、恋人は作らない。 そう言っていたのは彼だ。 最初からわかっていたはずだ。 じゃあなんで。 「じゃあなんで、始めたん。」 「つまり、はなから遊びのつもりで私と過ごしてたん?キスも、ハグも全部。」 ぽつり、ぽつ…

私たちの関係

私たちの関係についてどう思っているのか。 それは私も聞きたくて、でも聞けずにいたことだ。 「最近はなんか態度が変やったから、私も聞きたいと思ってた。でも、どういう意味?」 「君は、真剣な関係性を求めてる?」 「うん。遊びのつもりはないけど…もし…

Noche en blanco

私はその日をずっと心待ちにしていた。 なんてったって、出不精なクロが私とお出かけしてくれる最高の一日だ。 その日の夜はセビージャの美術館や多くの建物が無料で訪問することができ、美術館好きの私にとっては行かない理由がないイベントだった。 直前ま…

悲劇のヒロイン

一向に既読がつかないチャット履歴を何度も更新しては、肩を落とす。 やっと、ちょっとだけこの思考を止められそうだったのに。 結局私は自ら不安になっているんじゃないか。 「悲劇のヒロインぶってもあかんで。」 子供の頃に父親にそう叱られたことがある…

メッセージ

もともとクロと私はメッセージのやり取りがほとんどない。 一緒に住んでいるので直接話すほうが早いからだ。 チャットの履歴にも大した会話は残っていない。 誰もいない家。 きっと買い物にでも行ったのだろう。 すぐに帰ってくるはずだ。 でも念のためどこ…

異変

いつからだったのか正確には思い出せない。 でも、それは私の目には明らかだった。 あんなに甘えてきたクロが突然じゃれてこなくなって、意図的な距離を感じる。 私からハグをすると応えてはくれるけれど、どこかこわばった表情に見える。 気持ちを確かめ合…