クロは私の大阪弁を聞くのが好きらしい。
地元の友人と日本語(つまり地元の方言)で電話していた日に、片耳で聞いていたらしくそう言われた。
もっとも私は地元の友人にも指摘されるくらいには早口なほうなので、話している内容はほとんど彼には分からなかったらしいが。
それでもリズムや抑揚が面白いらしい。
「友達とよく電話するの?」
「う〜ん、そうやなあ。電話するの結構好きかも。それとあれかな。日本に帰りたいっていうホームシックはほとんどないんやけど、たまに大阪弁を思いっきり話したくなるんよな。スペイン語やとまだ思うようにスラスラ話されへんからさ。多分そのフラストレーションもあるんやろうけど。」
「じゃあさ、ちょっと一回俺に大阪弁で話しかけてみてよ。」
話が思いもよらない方向に転がった。
「いや、でもクロには何言ってるか分からへんやん。」
「それでもいいよ。雰囲気を味わってみたいんだ。例えば家に帰ってきて、その日あったことを友達や家族に話すみたいに言ってみてよ!」
なんでそんなに楽しそうなのかは分からないが、まあ減るもんでもないし。
お望み通り、なんて事のない日常会話を慣れ親しんだ言語で一方的に投げかけてみた。
「おおお!すごい!面白い!」
案の定話の内容は理解できていないようだが、楽しんでくれたのならなによりである。
「次はじゃあ、怒ってみてよ。彼氏が酔っ払って帰ってきたていで!」
謎のコントが始まってしまった。
ただ期待に満ちた無垢な瞳に抗えず、まんまとのせられる私。
その後は、長年連れ去った男友達に告白、友達と愚痴を言う、なんかのリクエストにお応えした。
最後の愚痴に関しては意味は分からずとも声のトーンで察したのか「おお」と怯んだような声をもらした。
「大阪弁、怖い?」
ふと疑問に思って聞いてみた。
「確かに勢いというか圧力というかすごみを感じるけど、なんかそれが好きなんだよね。もしかしてマゾの気質あるのかな俺?」
なるほど。それなら納得。
「大阪弁を話したくなったらさ、俺が聞くよ。誰かに聞かれたくない内容でも、どうせ俺分かんないし。俺は俺で聞いてるだけで楽しいから。ウィンウィンだね。」
そして私は新たなストレス発散方法を見つけたのであった。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。