理想
理想のタイプは?
ありふれた質問だけれど、私はいつも答えに詰まってしまう。
私だって、理想のタイプの一つ二つなくはない。
もちろんなくはないけれど、絶対に譲れない!みたいなものは多分ない。
ましてや外見的要素なんて、花屋で花を選ぶようなものだ。
それぞれ違った良さがあるのが前提で、その日の天気や気分によっても惹かれるものは変わるだろう。
花を買おうと思っていなくても、贈り物として受け取れば、もらう相手次第でそれは宝物に変わる。
とはいえ、外見のタイプはある。
私はどちらかというと目鼻立ちのはっきりした顔に惹かれがちだ。
男女問わず、整った顔だなと思う。
しかしながら、必ずしもそうでないと恋に落ちない!とは言い切れない。
じゃあ中身はどうだろうか。
これもまた難しい。
優しい人、とかありきたりな抽象的な答えしか咄嗟に出てこない。
実際、苦手な言動や性格はあるんだろうけれど、そうすると消去法になってしまう。
怒らない人、とか。靴下を脱ぎ散らかさない人、とか。
それに、人に危害を加えるとか、度を越えた悪癖でもなければ、人間関係多少は譲り合いで成り立つようなところもあるだろう。
そんなこんなで、譲れない条件!理想のタイプの完璧な像と!いうのは、あいにく持ち合わせていない。
もしもそんな質問に答えるとするならば、
「ずっと一緒にいたいと思える相手。その人がいればそれだけでいいと思える人。」
こんなところだろうか。
ある日のクロの質問は、「理想のパートナーシップは?」だった。
「一緒にいると幸せで、私が好きなその人が私のことを好きでいる。」
私の答えはいたってシンプルで、けれども誰しもが一度は願うようなことかもしれない。
クロは隣で興味深そうに頷いている。
「じゃあさ、君は旅行が好きだけど、パートナーとも一緒に旅行したい?ついてきてほしいと思う?」
どうだろうか。
クロの言う通り、今までの私は旅行が好きだった。
過去の写真を見てもほとんどが旅行先だし、海外なら15カ国くらいは訪れたことがある。
近場ならまだしも、遠い国を旅行するとなるとお金はともかく時間も必要になる。
自由な時間を確保することは歳を重ねるほど難しくなるし、相手がそこまで旅行に関心がない場合は時間を奪うことにも値しかねない。
一人旅行も経験があるし好きではあるから、相手を置いて旅行するという選択もあるにはあるが…
「どうかな。何がなんでも着いてきてほしいとまでは思わんかな。でも、かといって一人やったらそら寂しさはあるやろなあ。景色とか、美味しいものとか、共感できたら嬉しいなって思うから、せめて写真とかビデオ電話で伝えたくなると思う。」
なるほど、とクロは頷いている。
「まあでも、正直旅行欲はすでに結構満たされたんよな。学生のうちにいろんなとこ行ったし。もう一生行かんでいいかと言われるとそうではないけど。」
これは本心だ。
もちろん、好きな人とゆっくり旅ができれば、この上ない幸せな時間を過ごせるだろう。
でも、その選択肢が二人の関係性に水を差すのであれば、私はきっと選択しない。
「なるほどね。俺はどちらかと言うとインドア派だからさ。単純に気になったんだ。俺は家でゆっくりして、ワインでも飲みながら好きなアニメを見れれば幸せなタイプだから。」
「私も好きな人相手なら、それでも充分幸せやと思う。そらたまには外に出たいけど。」
結局そうなのだ。
大事なのは、何をするのかではなくて『誰と』その時間を過ごすのか。
そのまま会話が白熱して、話題が次に移った。
「俺は、関係性の深い友達が数人いるけれど、そもそも大勢と交友関係を持つタイプじゃない。でも例えばパートナーがいる時、君なら異性との付き合いはどうする?」
これもよくある質問だ。
「う〜ん。相手のことを信頼してるから、相手に対して疑ったりとかはしたくないけど。純粋にヤキモチ妬くやろなあ。私もついて行っていい?って聞いてまうかも。」
束縛したくはないけれど、きっと良い気持ちはしないだろう。
「相手にされたら自分がそんな風に感じるから、自分はせんとこうって思うかな。」
「それ分かる。俺も似たような考えかなあ。」
二人でキッチンに移動して、夕食の用意をしながら会話を続けた。
「俺はそもそも、好きな人ができたらその人が一番というか、たった一人の存在になるからさ。俺には常にその人が世界で一番綺麗だし、何かを共にするならその人とが良いって思うんだ。他の女の子と知り合いたいとかも思わないよ。」
「めっちゃ素敵やん。けど珍しくもあるよな。男の人ってどうしても、時間が経つとパートナーへの関心が薄れるってケースも聞くし。」
「そうなのかな。俺は魔法を信じてるんだよね。いるんだよ。魔法が起きる相手ってのがどこかにさ。その人は自分にとって全部が完璧なんだ。外見も、中身も何もかもね。」
私だって、そんな魔法があると信じたい。
幼い頃はきっと無条件に信じていられた。
いつか自分だけの王子様が白馬に乗って現れて、お姫様になった私はいつまでも幸せに暮らすのだと。
大人になって、いろんなものを見て聞いて、夢見ていたものはただのおとぎ話だったのだと思わせられるような暗い世界が目に映ることもあった。
そうやって少しずつ、夢を諦めてしまっていたのかもしれないとハッとさせられた。
本当は私だって、無邪気に理想を求めていたいのだ。
そして、それは誰にも咎められないはずだ。
夢を見ることは自由で、夢を見るために必要な資格なんてものはない。
ただ胸を躍らせてワクワクしていれば良いのだ。
私はまたしても、この同居人に人生の教訓を学んだのかもしれない。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。