大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

黒のワンピース

 

同居人二人がスペイン語で会話している時、まだ私には全てが聞き取れないことが多い。

私に聞かせようとする時は簡単な単語を使ったり、ゆっくり話してくれたりと配慮してくれているのだ。

 

その日も私は別の作業をしていて、彼らの会話に注意を向けていなかった。

「デート」と言う単語が聞こえて、思わず反応してしまうまでは。

どうやら女の子がクロを揶揄っている?らしい。

付き合ってくださいって言いなよ、みたいなことを言っているのは分かったが、文脈が分からない。

クロは真面目な顔で首を横に振っているが、彼女の表現からしてあくまで冗談だろう。

 

デート?誰と?

胸がざわつくのを感じた。

私の知らない人だろうか。

なんか、もやもやする。

 

結局話の全体像が見えぬままその会話は終わった。

彼女が仕事に行く時間だ。

 

それから私たちはお互いの言語を勉強したりして、しばらくした時にクロが出かける準備を始めた。

どこかに行くのかと問うと、

「仕事に行った彼女の代わりに薬を受け取りに行くんだ。一緒に来る?」

と返ってきた。

どうやらもう一人の同居人におつかいを頼まれていたらしい。

 

私はとにかくなんでも経験してみたかったので、二つ返事で答えて急いで支度をした。

からしっかり化粧をするような時間はないし、ただ薬局に行くだけだから簡単でいいか。

それでも、少しの間でもクロと二人で出かけるのなら可愛くしたいな、と思っている私がいた。

ひとまず簡単に着替えられるワンピースと、最近買ったお気に入りのサンダル。

眉毛だけ描いて、あとはリップを乗せてまとめていた髪を下ろす。

 

ささっとすませて玄関へ向かうと、クロがこちらを見て少し驚いたような表情をした。

「スカート、短すぎた。。?」

急いで選んだワンピースは丈が短めで、足を出しているのが見苦しかっただろうか。

「いや、完璧。サンダルも俺の好きなやつだし、黒のワンピースも俺好み。10点満点。うわあ、良すぎるよ。」

あら、心配に反して高評価だったらしい。

その後も、めっちゃ綺麗などの褒め言葉が聞こえた。

 

どんなけ黒好きやねん。

 

まあでもなんや、良かった。

そんなに誉めてもらえるといい気になっちゃいますよワタシ。

 

 

片道10分ほどの道をただ歩くだけなのに、なんだか新鮮だ。

並んで歩いて気づいたけど、クロって背が高かったんだなあ。

そんなことをぼんやり考えている時に

「集中して。デートでしょ、これ。」

と言われて思わず我に帰る。

隣ではクロが冗談冗談、ははと笑っている。

さっき聞こえたデートって、もしかしてこのことだった…?

本気でそう思っていないにしても、デートという意識が少しでもあったことがなんだかこそばゆくて。

今にもスキップしそうな気持ちを抑えて冷静を装った。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。