大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

ビタミン

 

ビタミンが必要な時がある、とクロは言った。

 

「俺は独身主義だけど、たまにビタミンが必要な時があるんだ。」

と言った。

いわゆる人肌恋しい時に、人のぬくもりが欲しくなるという話だ。

 

そしてその言葉は事実なのだろう。

クロと出会ってしばらく経った今なら分かるが、彼は人懐っこい。

 

日が経つに連れ私に気を許したのか私への距離も縮められている。

たまにツンツンされたり、ちょっとしたボディタッチが最近は増えた。

 

だからこそ、だ。

彼の言葉は理解できるが、少し寂しくもあった。

これまでの行動も、ただ人肌恋しくてしただけの行動なのだろうか。

 

 

「信用できる人ってなかなか現れないんだけど、なぜか君は大丈夫なんだよね。」

と彼は続けた。

「でも、もし嫌だったら言ってね。これ以上は踏み込んではいけないっていうラインがあるなら教えて。一緒に過ごすならお互い快適が一番だし。君に迷惑をかけたいわけじゃないから。」

彼は何一つ間違ったことを言っていない。

むしろ同居人として最重要な配慮の心を持っている。

 

なのになぜか、寂しいという感情が胸をかすめた。

線引きなんて、しないでほしい。

遠慮なく踏み込んできてくれればいいのに。

もっと、近くまで。

 

そんなことを思っている自分がいた。

 

「例えば、同居人として、これをされたら嫌だってことある?」

クロは質問を変えた。

すぐに思い浮かばない。

今までの生活で煩わしく思ったことも特にないし。

 

私が考え込んでいると、クロは言葉を続けた。

「俺は、君が男を連れ込んだら嫌かな。」

追い討ちを食らった。

また心が揺れ動く。

最近この男に揺れ動かされてばっかりだ。

些細な言動で一喜一憂してるなんて、認めたくない。

だって彼は。

 

 

 

それはつい最近の話。

「今は彼女を作る気はないんだよね。」

クロは確かにそう言った。

 

私はその理由を尋ねた。

「俺には夢があるんだ。それは、日本で住むこと。今はそれが最優先事項だってのがまず一つ。わざわざ恋人を探そうというつもりはさらさらないね。万が一偶然出会ったとしても、今から4年間ここで語学学校に通った後、俺は日本へ行くんだ。それについてきてくれる人なんて、そうそういないよね。辛い思いをするのが分かっているのに、わざわざその相手を探そうとは思わないよ。」

それはきっと彼の誠実さ故だ。

愛する人には一途に、真摯に向き合いたいということも以前言っていた。

 

 

 

だから、私はクロを好きになってはいけないんだ。

その日から、私の胸の中にはずっとその言葉が戒めのように残っていた。

 

 

彼を知っていく中で、少しずつ、けれども確実に。

私はクロに惹かれていたんだ。

ダメだと思った途端にそれを自覚した。

 

きっとどこかでまだ引き返せると思っていたのだ。

自分の心に芽生えた感情。

 

彼の言葉に期待する度にそれは大きくなって。

でもその成長には痛みが伴って。

 

褒められたって、人間として評価されているだけだ。

はき違えてはダメだ。

 

期待なんてするな、私。

彼はただ、人間ビタミンが必要なだけ。

頭では分かっているのにどうして。

 

うまく笑えない。

 

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

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