大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

いのち短し恋せよ乙女

 

誘惑の仕方を教えてもらったところで、不安要素が残っていた。

 

「誘惑したはいいけど、相手に効かなかったらどうすればいいん。」

教わったのはどれも好意が相手にモロばれしそうなものばかりだ。

一世一代の覚悟で誘惑に踏み切ったものの、相手に引かれてしまったなんてことではしばらく凹んでしまう。

 

「効かないなんてことはないと思うけどな。まあでも、仮に相手はその気じゃなかったのなら、仕方ないよね。その後しばらくはぎこちないかもしれないけれど、その場さえやり過ごせば後はさよならすればいい。俺ならさっさと次を探すね。人生は短いんだ、迷ってる暇があるならやってみてしまう方が良いだろうと俺は思うね。恋愛に限らず。」

それは、その通りだ。

だからこそ、人生において選択は非常に大きな意味を持つ。

自分の機嫌をいかにうまく取ってご機嫌でいるか。最近学んだ教訓だ。

図らずとも会話の内容が壮大になってしまった。

 

 

そんな話をしているうちにもう一人の同居人が帰宅し、二人の会話はそこまでとなった。

 

次の日はみんな朝に予定がなく、その日は三人がひたすらおすすめの動画を紹介してはギャーギャー笑い合って、あっという間に深夜1時近くなっていた。

そろそろ寝るわ、と最初にリビングを後にしたのは女の子。

おやすみ、と声をかけながら、私はクロが残るなら私ももうしばらくこの場に残っていたいと考えていた。

自分も眠いはずなのに、その眠気を無視してでも。

 

二人になった後、クロはテレビのリモコンを操作して以前二人で見た日本の恋愛リアリティーショーを再生しようとした。

まだ二人の時間が残っているんだと思うと、素直に嬉しかった。

 

 

日を増して、クロのボディタッチ(というよりもボディコミュニケーションと言うべきだろうか)は増えていった。

と言っても、もう一人の女の子も基本的にクロに距離が近いし、スペイン人の距離感がそもそも近いのだろうと思っていた。

問題は、それをどこまで受け入れて、どこまでこちらも歩みを寄せるか。

そのボーダーラインの見極めが難しい。

 

リアリティーショーで盛り上がったせいで自然に近づいた体、私の左手はもう彼の右手に重なっている。

意識しない素振りで、幼い恋のように全神経が左に偏っているのを感じた。

 

いつだったか、はっきりとはもう覚えていない。

気づけば、クロの右手は私の左手を握っていた。

二つの手のひらがピッタリ重なるように、少しずつ、少しずつ手繰り寄せて。

最終的には、しっかりと指をからめてぎゅっと握られている私の手。

初めに手が触れたときの喪失感が埋められて、もしかしたら彼も同じ気持ちだったのかな、なんて思うとなんだかこそばゆくて。

 

番組は終盤に差し掛かって目まぐるしい展開なのに、集中できない。

2話見終える頃には、私の右手も彼の左手に絡め取られていた。

 

停止ボタンを押すために右手が解放され、また喪失感が生まれる。

ああ、二人の時間も今日はここまでか。

 

そう思っていたら、

「この後どうするの?」

左手は掴まれたままで、そう尋ねられた。

 

こんなのって、ずるい。

 

どうしたいかなんて、そんなの。

 

「眠たいけど、まだ寝たくない。」

勇気がなくて日本語で言ったそれは、狙い通り彼には伝わらなかった。

それでいい。

今ならきっと、私たちはこのままただの同居人でいられるかもしれない。

 

その時、さっきのクロの言葉が思い浮かんだ。

「人生は短いんだから、迷ってる暇があるなら自分が本当に望む方を選ばなきゃ。

伝えようとしてる当の本人の言葉に背中を押されるなんて。

私の心を見透かして言ったのだとしたら、相当な確信犯だ。

 

恋人はいらないと言ってたことも、私のビザが一年も残っていないことも、今はいいや。

だってさ、この瞬間の私がそれを望んでるんやもん。

いのち短し、恋せよ乙女。ってな。

 

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。