王冠
次の日、なんとなく恥ずかしくてクロの顔を見れない私。
もう一人の同居人が出かけて二人きりになっても、なんだかぎこちない。
昨日で、私たちの距離がどこまで縮まったのか、測りかねていた。
クロが買い物から帰ってきて、
「君が喜びそうなものを買ってきたよ。」
とエンパナーダというお惣菜パンを分けてくれる。
A4くらいある大きさのそれは外からでは中身がわからず、好奇心がそそられる。
昔、漫画で似たようなものを見た。
祝い事の日にケーキを食べるのシーンがあって、ケーキのどこかに指輪が隠されている。
ケーキ入りのピースを食べた人には良いことが起こる。
そんな内容だったと思う。
クロにもその話をしてみた
「ああ、それ知ってるよ。スペインではRoscón de reyesって言って、クリスマスに食べるんだ。」
名前の由来はそのフォルム。
Roscónは円形のケーキ、reyesは王様という意味だ。
「もし気に入ったなら、今年のクリスマスは一緒に食べよう。部屋の隅に小さいツリーも置いてさ。」
「おーいいね。」
なんて軽く返事したけれど、心は騒がしい。
クリスマス、クロと一緒に過ごせるんや。
そして、その想像をちょっとでもしてくれていたことも嬉しかった。
もう今からクリスマスが楽しみで仕方ない。
その後クロが面白い動画を見せてくれて二人で笑い合う。
ね、面白いよね。とでも言いたげに私の腕を掴むその仕草にさえ。
今の私は過剰に反応してしまう。
でも昨日のことには触れてこなくて。
なんとなく名残惜しいような気持ちでキッチンに移動した。
このまま何もなかったように過ごすことになったらどうしよう。
落ち込む気持ちを誤魔かすように食器を洗おうとした時だった。
クロの両腕が私を捕まえる。
いつの間にかその瞳は甘くとろけていて。
瞬時に悟った。
昨日のことはなかったことにはならない。
私たちはもう、落っこちてしまったんだ。
甘い甘い、蜜の中に。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。