告白
私の部屋で二人きり、ベッドに腰掛けて何げない会話をしていた。
以前クロが自分で公言していた通り、彼はcariñosoだ。
いわゆる甘えん坊、でも甘えるだけでなく甘やかすのも好きなのだ。
二人になると途端にスイッチが入って、彼は子犬のようになる。
いや、身長が180あれば大型犬と言うべきか。
スペイン育ちの大型犬は、私の左肩に顎を乗せてもたれかかってきた。
クロの瞳が私をとらえる。
もう、それが自然なことのように唇が重なった。
「実は初めて君を見た時、なんて綺麗なんだって思った。でも俺らは同居人だって自分に言い聞かせた。あくまで同居人として仲良くしようって。でも、どこかで魔法を期待してた。結局俺はこうなることを望んでいたんだ。」
クロは目尻を少し下げながら続けた。
「一緒に出かけた時の黒いワンピースなんか、ダメだよ。綺麗すぎ。直視できなかったもん。髪の毛もおろしてたし。俺がおろしてる髪好きだって知ってるでしょ。」
自分でもにやけてしまっているのが分かる。
クロに可愛いって思ってもらいたいなって、考えてた。
効果はあったのだ。
私がハグしていいかと聞く前の、私の言葉を待つクロの顔が頭に浮かんだ。
あの時はまだ知らなかった、とろけそうなほど優しい目をしたその顔。
焦ったいような、でも嬉しそうな表情。
緊張と不安で何度も言い淀んだ私を、どんな気持ちで見守ってくれていたのだろう。
あの時は分からなかった答え合わせをしているようで。
幸福感と安堵の気持ちがじわっと広がる。
思い返すと、これまでの恋愛では、どこかで自分の気持ちを押し殺していた。
理由は単純。
嫌われるのが怖いからだ。
けれども不思議なことに、クロと二人でいる時は、その怯えと無縁でいられる。
クロと目を合わせて、これでもかと下がった目尻で笑いかけられれば、守られているように感じるのだ。
取り繕ったり背伸びしなくったって、等身大の自分で正面から向き合っていいんだと。
その笑顔が私に言っているようで。
だから、引っかかっていたことも恐れずに聞けた。
「クロ前にさ、しばらく恋人は作る気はないって言ってたやん。この状態のこと、どう思ってるん?」
「そうだね。まず、君のことは本気で好きだ。それと、君のビザが切れて日本に帰った後どうするかとか、先のことは先のこととして。今君といる時間を全力で楽しみたいと思うよ。」
「楽しむって、まさか“お楽しみ”ってことじゃないよな?」
「違うよ。何かするなら、全部君とがいいって思ってる。君とだけがいい。他の女の人との付き合いにも興味ないし、異性として知り合おうとも思わない。君だけに集中したい。そして、それは君もだといいな。他の男に興味が湧いたらすぐに教えてほしいし、なんでも話してほしい。隠されたり嘘をつかれたら、耐えられない。」
「じゃあさ、クロとのこと、友達とかに話してもいい?恋してる相手のこと、言いたいねん。迷惑じゃない?」
「迷惑なんかじゃないよ。君が好きなようにしてよ。友達がなんて言うのか聞きたいね。」
そう言って、また私にキスしてみせるのだ。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。