大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

止まらない涙

 

本気で好きになれば別れが辛くなるから、恋人は作らない。

 

そう言っていたのは彼だ。

最初からわかっていたはずだ。

じゃあなんで。

 

「じゃあなんで、始めたん。」

「つまり、はなから遊びのつもりで私と過ごしてたん?キスも、ハグも全部。」

ぽつり、ぽつり、と言葉にするたび自分の胸が痛むのがわかる。

そしてその度に、目から涙がこぼれる。

あああ。せっかくの化粧が台無しや。

 

「いざ始めてみたら、たくさんの感情が生まれたんだ。俺にだって感情はある。このまま続けたらどうなるかって考えたら、君のためにも、俺のためにも今のうちに止めるべきだって思った。」

 

 

とても中心地にいく気分にはなれなかった。

化粧が崩れてしまったことよりも、ぐしゃぐしゃになった私の心が立て直せそうにない。

今何をみてもきっと何の感情も湧かないし。

どうせ考えてしまうことは一つだ。

 

そういや、さっき着替えた時も直接的な褒め言葉はくれなかったなあ。

それも、これが理由か。

最近態度が白々しかったのも、キスする時にぎこちなかったのも、戸惑っていたからなのかな。

もやもやの正体が分かると、なんだか余計に涙が出てきた。

 

「一旦一人で考えたい。整理したい。」

「でも、もう遅いから君を一人で外で出歩かせるわけにはいかない。」

「じゃあ家に帰る。今から何かを見る気にはなられへん。」

 

立ち上がって駐車場を後にした瞬間に、クロが前に褒めてくれたクロのサンダルが壊れて、輪をかけて悲しくなった。

こんなタイミングで。

 

家に帰る道のりにも、頭の中は考え事だらけだった。

 

確実なのは、それだけクロの日本で住むという夢は確固たるものなんだ。

それを、邪魔したいわけじゃない。

でも、邪魔したい。

クロに私のことを考えてほしい。

そんな醜い欲求が芽生えていることに気づいた。

 

 

家に戻って、もう一度話をした。

 

「つまり、真剣に付き合うことができひんから、関係を続けられへんってことよな。」

「俺のいう真剣っていうのは、将来を約束して家族にも紹介することだ。でも、今の俺の人生は不安定で、先のことも未確定、収入源や住む場所なんかも確約されていない。自分でも自分の将来が分からないような状況だ。そんな俺が、誰かに将来を約束することなんてできない。パートナーになったら、二人の人生だ。俺だけ良ければいいって訳じゃない。」

言ってることは理解できるけど、受け入れたくない。

それでも良いって言ったら?

「今は、感情的やから冷静に話せてないんかも知らん。でも、私はクロと一緒におるだけで幸せやねん。二人とも好きで、一緒にご飯食べたり笑い合って、たまにお互いの言語を学んで。それだけじゃあかんの?」

 

先のことなんて、どのみち分からない。

今この瞬間の幸せを追うことがそんなにいけないことなのか。

 

「それに君は、旅行が好きだけど俺は家で過ごすほうが好きだ。俺のせいで君の好きなことを我慢して欲しくない。」

「旅行なんて友達や家族とも行けるやん。そらパートナーと行けたら幸せやろうけど、お互いに別の趣味やからあかんなんてことはないはずや。」

今の私には、クロの言葉の全てが私を妨げるためのものにしか見えない。

受け入れたくない。

受け入れてほしい。

 

言葉にならない感情が、またボロボロとこぼれ出す。

何を言いたいのかも分からず、でもただただ悲しい。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。