吐露
私に話してくれたってことは、多少整理ができたのだろう。
安堵する気持ちと同時に、悲しくもなる。
私が状況を良くしてあげられるわけではなくて。
またかける言葉が見つからない。
ただ、これ以上悲しむ必要はないんだよって、包み込んであげられたら。
この瞬間に私ができることは、何か気の利いたセリフを吐くことではなくて。
「感覚が鋭いならさ、今私が何考えてるか当ててみてよ。」
言いながら、私の声は少し震えていた。
話す彼の表情を見つめながら、私もいくつかの感情を受け取っていた。
言語化できない感情が私の中で渦を巻いて、溢れ出ようとしている。
「分からない、何?」
「抱きしめてあげたいって思っ」
言い終わる前に、右手を引っ張られて気付けば彼の腕の中にいた。
蓋が外れたように感情断ちが流れ出す。
彼の袖を濡らしてしまう。
「ダメ。俺まで感情が止まらなくなる。」
「うん。」
場にそぐわず、一気に安堵が胸に広がる。
こうして彼の体温をしっかりと感じたのはいつぶりだろうか。
「ここ二日間、寂しい想いをさせてごめん。」
そう言ってさらに抱き寄せられる。
そのせいでまた泣いてしまいそうだった。
「あかん、鼻水も出てきた。」
すっかり安心しきった私は、今度は笑っていた。
近くにあったキッチンペーパーでクロが涙を拭ってくれる。
思いっきり鼻を噛む私に、いつの間にかクロも笑っている。
顔の水分を拭った後、私たちはもう一度ハグをした。
すっかり笑顔で。
「やっぱり気持ち良い〜。」
とクロが嬉しそうに口にする。
「落ち着く、じゃなくて?」
と言ったけど、実際はそんなことどうでも良かった。
クロとこうして笑い合えていることが、何よりも嬉しかった。
ここ数日ずっと待ち望んでいたことだ。
そのまま、しばらくお互いの体温を感じていた。
「この前、例の同居人のこと、上から下まで見てたよね。気があるって思われるかも知れないからやめた方が良いよ。」
見てたっけ?
「多分無意識や。」
「だとしても、誤解される可能性があるから言っておくよ。それと、楽しそうに会話しないこと。必要以上に話を膨らまさず、最低限の返事だけしてたらいいから。」
およよ。
もしかして、ヤキモチ?
にやついた私に気づいて
「ま、君の好きにしたらいいけど。好きになるのは自由だし。」
と捻くれた言葉が付け加えられてムッとする。
そうやって突き放されると、悲しい。
その後掃除を続けながら、少しずつクロが自分の気持ちを話してくれた。
「家を出るって言った時も、引き止めようとしないし。君にとってはどうでも良いのかって。」
「それは、そこまで口出す権利ないと思ったから…。私だってクロと離れたくないけど、私の感情は勝手な私の気持ちやんか。」
例の話し合いがあってから、私はクロとの距離感を模索中だった。
ただの同居人に対する感情ではない。
それ以上のものを抱いている。
でも、恋人のように接することもできない。
そうして自分の気持ちを抑えていたから、自分の気持ちも正直に話してはいけないんだと思っていた。
なんだ。
クロは私に期待してたんだ。
もしかして、私の気持ちを確かめたかったのかな。
そう考えると、なんだか急に可愛く見えて。
一体私たち何をしてるんだろうね。
ゴールを見えないふりして、わざと遠回りしてるみたいだ。
クロはそれに気づいているのかな。
きっと、どうしたって私たちはあの場所にたどり着くよ。
楽しそうで、幸せな香りがする場所。
急に肩の力が抜けて。
力んでたことがバカらしくなって。
型にはまらなくて良いかなって。
良い意味で諦めた。
もしまだ気づいてないとしても、良いよ。
好きなだけ、遠回りしてよ。
私は逃げないし、いつまででも一緒に寄り道するから。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。