大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

吐露

 

私に話してくれたってことは、多少整理ができたのだろう。

 

安堵する気持ちと同時に、悲しくもなる。

私が状況を良くしてあげられるわけではなくて。

 

またかける言葉が見つからない。

ただ、これ以上悲しむ必要はないんだよって、包み込んであげられたら。

 

この瞬間に私ができることは、何か気の利いたセリフを吐くことではなくて。

 

「感覚が鋭いならさ、今私が何考えてるか当ててみてよ。」

言いながら、私の声は少し震えていた。

 

話す彼の表情を見つめながら、私もいくつかの感情を受け取っていた。

言語化できない感情が私の中で渦を巻いて、溢れ出ようとしている。

 

「分からない、何?」

「抱きしめてあげたいって思っ」

 

言い終わる前に、右手を引っ張られて気付けば彼の腕の中にいた。

 

蓋が外れたように感情断ちが流れ出す。

彼の袖を濡らしてしまう。

 

「ダメ。俺まで感情が止まらなくなる。」

「うん。」

場にそぐわず、一気に安堵が胸に広がる。

 

こうして彼の体温をしっかりと感じたのはいつぶりだろうか。

 

「ここ二日間、寂しい想いをさせてごめん。」

そう言ってさらに抱き寄せられる。

そのせいでまた泣いてしまいそうだった。

 

「あかん、鼻水も出てきた。」

すっかり安心しきった私は、今度は笑っていた。

 

近くにあったキッチンペーパーでクロが涙を拭ってくれる。

思いっきり鼻を噛む私に、いつの間にかクロも笑っている。

顔の水分を拭った後、私たちはもう一度ハグをした。

すっかり笑顔で。

 

「やっぱり気持ち良い〜。」

とクロが嬉しそうに口にする。

「落ち着く、じゃなくて?」

と言ったけど、実際はそんなことどうでも良かった。

クロとこうして笑い合えていることが、何よりも嬉しかった。

ここ数日ずっと待ち望んでいたことだ。

 

そのまま、しばらくお互いの体温を感じていた。

 

「この前、例の同居人のこと、上から下まで見てたよね。気があるって思われるかも知れないからやめた方が良いよ。」

見てたっけ?

「多分無意識や。」

「だとしても、誤解される可能性があるから言っておくよ。それと、楽しそうに会話しないこと。必要以上に話を膨らまさず、最低限の返事だけしてたらいいから。」

およよ。

もしかして、ヤキモチ?

にやついた私に気づいて

「ま、君の好きにしたらいいけど。好きになるのは自由だし。」

と捻くれた言葉が付け加えられてムッとする。

そうやって突き放されると、悲しい。

 

 

その後掃除を続けながら、少しずつクロが自分の気持ちを話してくれた。

「家を出るって言った時も、引き止めようとしないし。君にとってはどうでも良いのかって。」

「それは、そこまで口出す権利ないと思ったから…。私だってクロと離れたくないけど、私の感情は勝手な私の気持ちやんか。」

 

例の話し合いがあってから、私はクロとの距離感を模索中だった。

ただの同居人に対する感情ではない。

それ以上のものを抱いている。

でも、恋人のように接することもできない。

そうして自分の気持ちを抑えていたから、自分の気持ちも正直に話してはいけないんだと思っていた。

 

なんだ。

クロは私に期待してたんだ。

もしかして、私の気持ちを確かめたかったのかな。

 

そう考えると、なんだか急に可愛く見えて。

一体私たち何をしてるんだろうね。

ゴールを見えないふりして、わざと遠回りしてるみたいだ。

クロはそれに気づいているのかな。

きっと、どうしたって私たちはあの場所にたどり着くよ。

楽しそうで、幸せな香りがする場所。

急に肩の力が抜けて。

力んでたことがバカらしくなって。

 

型にはまらなくて良いかなって。

良い意味で諦めた。

もしまだ気づいてないとしても、良いよ。

好きなだけ、遠回りしてよ。

私は逃げないし、いつまででも一緒に寄り道するから。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。