水瓶座
「実はさ、クロの星座調べたねん。」
クロのほうきを奪って、今度は私が床を吐きながら言葉を放った。
「前に誕生日と星座いってたから。私とクロは多分考え方が全然違うからさ。でも、落ち込んでるの見たらほっとかれへんくて。そういう時水瓶座にはどういう対応して欲しいのかなって、ちょっと調べたりした。」
「水瓶座は自由を愛するって書いてたでしょ。」
「うん。自分にも周りにも独立を求めるとも書いてた。やから、やっぱり干渉されたくはないんかなって。」
私の話を聞きながら何か調べごとをしていたかと思えば、携帯の画面を見せてきた。
とあるインスタグラムの投稿だ。
水瓶座にまつわる取り扱い説明みたいなものとか豆知識が可愛い画像に記されている。
「占いをすごく信じてるとかじゃないけど、当てはまることが多くて面白いから、フォローしてるんだよね。」
そこからいくつかの投稿を見せてもらった。
「私も自分の、見てみたい。双子座。」
双子座の投稿では、旅行できない彼氏は別れるとか、時間を守らないとか書いてある。
「やっぱ旅行できないとダメなんだ。全然違うね俺ら。」
と寂しいことを言う。
「占いが全てじゃないよ。」
と反論しながらも、ちょびっと不安が私にも襲いかかってくる。
いくつかの投稿を遡ると、良いものを見つけた。
私がにやついていると、横からクロが覗き込んできた。
見ていた投稿をクロにも見せつける。
それを見た後は、クロもにやついていた。
そこには、双子座と水瓶座の恋愛における相性が抜群だと書いてあった。
「私にとって今一番大事なものは、クロなんよ。」
リビングを掃きながらおもむろにそう言うと、机を拭いていたクロの手が止まる。
じっとこちらを見ている。
「ほんと?」
「ほんまやよ。なんや。知らんかったん。」
やっぱり自分の気持ちって話さな伝わらないものだなあ。
こんなに分かりやすいと思ってたけれど。
その気持ちの大きさとか、深さは見えないものだな。
言葉にするって、大事だな。
それからは、この二日間が嘘のように笑い合って過ごした。
自分の気持ちを塞ぐことなく、思いっきり笑い合って過ごせるこの瞬間をどれほど待ち侘びていたか。
クロの笑顔を久しぶりに何度も目の前にして、心が満たされていくのを感じる。
今日もいつものようにアニメを見たけど、いつもよりも笑いに溢れている。
アニメの絵がちょっと面白くて、何度もそれを真似して笑い合った。
なんて事のないくだらない事なのに。
二人で何かを共有している事が嬉しくて。
それに、今日は月を一緒に見る事ができた。
綺麗だねって言い合えた。
私は、こんな小さな事で幸せになれるんだよって。
いつか伝えないといけないなあ。
散々笑って、それぞれの部屋に寝に帰る時。
クロの手が荒れていて、ハンドクリームを渡してあげた。
しばらく持ってて良いよ、って手渡した。
すると優しく抱きしめられて。
「今日は、ありがとう。色々、全部。ありがとう。」
その全部が何を指していたのかは、分からない。
けれど多分、私が考えていることはあながち間違ってないはずだ。
「私こそ、ありがとう。」
ありがとう。
私に話してくれて。
心を開いてくれて。
一緒に笑い合ってくれて。
こんなに楽しく過ごせて。
今こうして抱きしめていられることも。
諦めないでくれて。
今はまだ、私たちの関係性に名前はないけれど。
急かしたりしない。
少しずつでも、私たちのペースで。
なぜか、私には自信があるんだ。
少しずつでも、前に進んでいるって。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。