ハグ
最近は、毎日のようにハグをしている。
私からすることもあるけれど、クロからしてくることも多い。
例えば私が落ち込んでいるときや気分を損ねた時。
ごめんね、とか、大丈夫だよ、みたいな意味を含んでいるのであろうぬくもりで包んでくれる。
その度に、私の機嫌は簡単に治ってしまう。
私の考えている通りの意図なのだとしたら、効果はてきめんだ。
それと、ここ最近は外出から帰ってくると、必ず私の元に来る。
私が部屋にいたら、部屋にも入ってくる。
私が考え込んでいたり暗い表情をしていたら、笑わせようとくすぐってくる。
煩わしい時もあるけれど、助けられていることの方が多い。
そうか。
クロは、あまり辛い顔を私に見せない。
対して私は、不安からクロの前で暗い顔をしてしまうことも多い。
もっと悪いのは、拗ねてしまうことだ。
子供じみていて、そんなことをしても意味がないことはわかっている。
逆に嫌気がさされてしまうかもしれないとも思っている。
でも感情がうまくコントロールできない。
そんな限界がきて、自分ではどうしようもない時にクロのハグでリセットされるのだ。
私はクロに救われているんだなあ、と思う。
クロのことを考えて悲しくなったり、嬉しくなったり。
我ながら、完全に振り回されている。
自分の足でしっかりと大地を踏みしめたいのに、まだまだ不安定だ。
女は追われてなんぼ。
男を手のひらで転がすくらいの器を持て。
恋愛の教科書に載っていそうなこと。
その基準に則れば、今の私は落第点だなあ。
ある日、私の写真フォルダを遡っていたら、過去に言語交換アプリで会った男の人との写真が出てきた。
その人には地元を案内してもらって、本当に良くしてもらった。
恋愛感情も抱いていないし、友達の一人だ。
しかし、写真には距離の近い私たちが写っている。
彼が私を性的に扱ってきたことはないけれど、写真の時は距離が近かったのは事実だ。
私は、外国の人はやっぱ距離感近いな〜と思ったものの、わざわざ距離を取るのも違うなと思って流れに身を任せていた。
それを見たクロは、露骨に不服そうな態度を取った。
「うわお。随分距離が近いね。」
「外国の人ってそんな感じなんかなって。拒否するのもおかしいし。友達やよ。」
「ふーん。君は随分愛嬌があるんだね。友達とこんな近づいて。まあ、もちろん君の自由だけど。」
言い訳をするのもおかしいなと思って、反論するのを諦めると、クロは拗ねながら自分の部屋に戻っていった。
後に残された私もどんどんモヤモヤしてくる。
素直に嫉妬してくれればいいのに。
たまにクロは私を束縛したがるような態度を取る。
その割に、自分のことは話さない。
悶々とした気持ちがどんどん黒くなっていく。
いや、だめだ。
こうやって悶々したいわけじゃない。
私はクロと楽しく毎日を過ごしたいんだ。
仲直りしようとクロの部屋に向かう。
私が何か言う前に、抱き寄せられた。
ほら、仲直りは簡単だ。
「すごく綺麗だよ。」
今朝切った髪に触れながら、クロは言う。
きっと私たち二人とも、素直になるのがちょっとだけ下手なんだ。
でも、仲直りの仕方を知っているから。
恐れる必要はない。
すれ違っても、何度でも。
またこうして仲直りすればいいんだ。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。