大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

間違い

 

「日本人の妻は、結婚した後に旦那以外の男と浮気をするって本当?」

「誰がそんなこと言ったん。」

 

クロが熱心に見ている日本在住のスペイン人のYouTuberがいる。

日本に住んで10年近い彼が、日本のあれこれを動画で話しているのだ。

その一環で、先ほどの話題が出たらしい。

 

動画で、何人もの日本人妻が秘密で不倫をしていると言っていたらしい。

そして、その相手として外国人が選ばれやすいと。

後腐れなくその瞬間を楽しめるからだとか。

 

確かに、そういう人も中にはいるだろう。

けれど、なんだか自分自身のことも批判されているような気持ちになってしまって居心地が悪い。

 

「君もそうなの?」

興味深そうに私に尋ねてくる彼の顔には、不純な動機は見当たらない。

単純に好奇心で聞いているようだ。

 

「私はそもそも体の関係に興味津々な人間じゃないから。そう言う人らもいるやろうけど、全員じゃないよ。」

「でも動画で言ってたよ。」

相変わらず頑固なところがある。

反論したい気持ちが湧き上がってくるが、ふと冷静になる。

 

そもそも私にそんな資格ある?

私が不倫したとして、クロに関係ある?

どんどん思考が悪い方向に傾く。

 

「クロはさ、私の話一回もちゃんと聞いてくれたことないよな。いつも私の話聞かへん。」

吐き捨てるように言ってから、すぐに気づいた。

言葉選びを間違えた。

「一回も?本気で言ってるの?」

クロの表情が歪んでいく。

 

つい口から出た言葉だ。

本気で言ったんじゃない。

 

クロを傷つけてしまった。

私の感情は急降下する。

着地点は悲しみだ。

 

「ごめん。」

クロの顔を見て、もう一度言う。

「ごめん。本気で言ったんじゃない。言葉選びを、間違えた。」

 

丸めた紙くずを、クロが私に投げつける。

「え?」

「今怒りをぶつけた。これでもうさっきのことは許したよ。」

「…ありがとう。」

「人は誰でも間違うよ。」

 

そう言って、今度は笑顔を見せてくれた。

 

「あ、ちょっとトイレ。」

「どうした?大丈夫?」

「いや、生理始まったかも。」

「ああ。だから怒ったりしてたんだね。」

一人でクロが納得した様子で頷いている。

 

確かにそうかも。

生理前なのもあって、私の情緒は不安定だったのかもしれない。

 

その後、ごめんの気持ちを込めてマッサージをしてあげた。

ソファに腰掛けてアニメを見るとき、クロは私の膝に足を乗せてくる。

その足を丁寧にほぐしてあげた。

 

自分でもその行動が信じられなくて笑ってしまう。

そもそもマッサージが得意な方でもないし。

頼まれてもしたくない、とこれまでの人生では積極的ではなかった。

そんな私が自らすすんでマッサージしたいだなんて。

 

確かに存在する、この気持ちがなんだかこそばゆくて。

そしてあたたかい気持ちになった。

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

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