プラン
「2年間日本語を独学で勉強して、ワーホリビザで日本に行く。そこで、特定技能ビザの試験を受ける。そしてその前に、来年観光ビザで日本に行こうと思う。君はどう思う?」
クロにそう聞かれたけれど、どの立場で答えれば良いのか分からなかった。
私の感情を交えて答えるべきではないような気がして。
「クロの人生やし、クロが納得いくなら良いと思う。」
実際、プラン自体に異議はなかった。
ただ、その未来予想図に私が登場するのかだけが気になった。
「日本語はどうやって勉強するん?」
コンサルタントに話を聞いて、新たな可能性を見つけたクロはあっさりと学校を辞めた。
あれほど頭を抱えていた日々が嘘のように、一瞬の出来事だった。
「君と、勉強する。」
「でも私は2年もスペインにおらへんよ。私がおらんくなった後はどうするん?」
「あ、ほんとだ。」
今気づいた、みたいな言い方をしてたけどそれすら引っかかった。
そこまで具体的に計画しておいて、気づかなかったわけがない。
いや、やめよう。
探り合いのような、意味のない駆け引きは疲れるだけだ。
落ち着こうとした気持ちは簡単に揺さぶられた。
「今、名古屋を見てるんだ。」
「名古屋?」
この間まで、私の地元を見て住みたいとか言ってたのに。
大阪住みたいと何度も言っていたくせに。
もちろん、あれが本気だったとは思っていないけれど。
なんで急に。
気持ちを押し殺すように
「いいんちゃう。」
と言ったけれど。
そんな私の本心を見透かしたように
「…だけど?」
としまい込んだ気持ちを掘り起こそうとする。
「私がおらん将来像は、好きじゃない。」
その瞬間、居心地の悪い空気が流れる。
ああ。
また間違えた。
なんでいっつも。
正しくない方ばかり選んでしまうんだ。
これじゃ、重たい女だ。
実際そうか。
きっと寂しかったんだ。
一緒に暮らして、こんなに近くにいると思っていたのに。
彼の将来設計には携われなくて。
二人の距離は思っていたよりも遥か遠いと思い知らされたことが。
こんな風に考えてしまうのも、全部生理のせいだ。
そういうことにしたい。
こんな自分は好きじゃない。
重くて、暗くて、ドロドロしている。
自分でも好きじゃないのに、周りに受け入れられるはずがない。
そんなことも分かっている。
全部が悪循環だ。
やっぱり、離れるべきだ。
強制的に、他のことを考えるように自分を仕向けよう。
クロのことを考える時間を無くすんだ。
これ以上、自分を嫌いになる前に。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。