大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

結局

 

薄々気づいていた。

 

目の前に立ちはだかるモノ。

出くわす度に巧妙に避けて通って来たつもりだった。

けれど、この先へ進むにはいつか対峙しなければならないのだと。

 

ここ最近の平和な空気に少し絆されていたのかもしれない。

いや、自らその空気に身を隠していたのか。

 

結局のところ、明るく振る舞っていても、私の中の黒い影は完全には消えていなかったのだ。

 

キッチンで料理をしている時に、

「そういえば、」

とクロがおもむろに口を開いた。

「前の同居人の女の子に、俺たちのこと話したよ。」

特に何か意味を含んだ様子はなく、あくまで報告、という感じだった。

 

新しい同居人が引っ越してきてクロの頭の中がパンクしそうになった時に、彼女にも事情を話して相談していたのだとクロは話した。

その一環で、私たちのことも話題にしたと。

 

「彼女はなんて言ってた?」

「思った通りだって言ってたよ。俺が引っ越した初日から恋人になるんじゃないかって思ってたって。でも結局そうはならなくて。彼女の母親も俺らはなんかあると思っていたらしいけど、あくまで友達だと話したって。」

友達、という言葉が引っかかった。

私たちは、本当に友達なのだろうか。

 

クロはそれだけ言うとあっけなく会話を切り上げたので、気になった私は彼女に連絡してみることにした。

今は日本にいる彼女にメッセージを送る。

「クロから聞いたんやけど、なんて話したん?」

「数日だけ恋人のような関係を試してみたけど、やっぱり恋人は今は欲しくないって言ってた。そんなに深くそのことについては話してないよ。」

さっき感じた違和感が、さらに大きくなる。

「予想はできてたけど、いざ直接話を聞いて、災難だなと思ったよ。」

と彼女は続けた。

「災難?」

「クロはまだ、恋愛におけるリレーションシップを築く段階にいないのが分かってたから。まだ自分の将来についても迷っていて、成熟しきっていないから。恋人を作る準備が整っているようには見えなかったし。実際、男子ってそういう人多いよね。いざ責任が伴うとまだ心の準備が…とか言ってさ。」

よくある話だ。

このテのことは全世界共通なのか。

 

私が返信を打とうとしたら、いつの間にか部屋に入って来ていたクロが私の携帯を覗き込む。

あっさりと携帯を奪われ必死に取り返そうとするも、敵わない。

 

私と彼女のやりとりを見たクロは、分かりやすくヘソを曲げた。

「俺が本当に未熟だったら、君と話し合おうとなんかしなかったよ。そのまま君を弄ぶのが本当に最低な男だろう?」

納得がいかない、というような顔をしつつも

「君が望むのなら、何度でも話し合えるよ。なんせ一緒に住んでいるんだし。」

そう言って部屋を後にした。

 

そんなこと言って、結末は分かりきっている。

クロがなんて言うのかなんて想像できている。

私が何を言ったって、彼を変えることはできないんだ。

 

今の私には、何もかもが悲観的にしか考えられなかった。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。