大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

振り出しに戻る

 

 

思いの外伝えたい言葉はすぐに定まった。

 

心の中にうずくまっていた感情は、どこかで外に出る機会を待っていたのかもしれない。

 

メッセージで送るとあまりにも長い。

けれども、私の本当の、今の気持ちだ。

そして、なるべく落ち着いて。

冷静に、重くなりすぎないように。

 

本当ならもっと準備をして時間をかけてもよかったのかもしれない。

けれど、この重たい空気にもう耐えられなかった。

 

こうやっていつも焦ってしまうところ。

これも良くないなあ、なんて頭では分かっているのに。

落ち着きがない心は静止を嫌がる。

 

 

ええい。

なんとでもなれ。

半ばヤケクソに、自分を奮い立たせて。

そしてクロの部屋の扉を叩いた。

 

「クロ、ちょっと話せる?」

ああ。もっと冗談っぽく。

軽く、笑って話そうと思ってたのに。

 

これから起こることを予想してか、クロの顔がこわばるのが分かる。

そりゃそうだ。

こんな深刻そうに切り出されば無理もない。

 

「何。怖い。」

そういうクロに、何から話し始めれば良いのか考えを張り巡らせる。

 

頭の中で準備した言葉を何度も並び替えて。

ああ。

やっぱり台本を用意して話すのは向いていない。

 

あんなに考えた言葉が、口から出てこない。

口にするのが怖い。

自分から話がしたいと言っておいて、なかなか切り出せずにただ立ちたくす私をクロはじっと見ていた。

 

「恋人は、今いらない。」

私の決心がつく前にクロがそう言い放った。

 

ああ。

全てが崩れ落ちるようだった。

期待とか、淡く抱いていたものたちが一瞬にして消え去る。

やっぱり私は期待してたんだ。

 

期待?

どんな言葉を?

やっぱり君のことが好きだから特別に付き合おうって?

 

ここ最近のクロの態度を、また私は履き違えていたのか。

振り出しに戻った。

いや違う、今度こそ、道自体が閉ざされてしまった。

 

頭が解釈を始めると同時に、涙が込み上げてくる。

泣いたらだめだ。

冷静に話さないと。

でも何を話す?

もう結論は出た。

恋人にはなれない。

私はこの想いをこれ以上膨らませてはいけない。

最初から分かっていたことだ。

それを子供のように地団駄を踏んでいるだけ。

 

「一つだけ聞かせて。恋人にならないなら、俺たちの関係はゼロ?一緒にご飯を食べたり、アニメを見たりすることもできない?俺はできることなら君と一緒に楽しい毎日を送れたらと思うけど。もし君がそれを望まないなら、それでもいい。お互い一切干渉せずに、それぞれの人生を歩もう。」

 

なんで、そんなこと言うん。

 

堪えていた涙が限界を超えて頬を伝う。

 

なんで、そんなに平気そうなん。

私と離れること、ちょっとくらい悲しんでよ。

あっさり無かったことにできるなんて、言わんといてよ。

 

「私は、」

なんとか絞り出した言葉はどうしようもなく震えていて。

冷静さを欠いた私は、理性的に話そうと決めていたことすら忘れて。

また感情の、悲しい波にのまれてしまう。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。