大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

冗談

 

 

「オンラインレッスンを受けることにした!」

嬉しそうにクロがそう報告してくれた。

 

以前コンサルタントを頼んだ相手が日本語の講師もしているらしく、それを受講するのだそうだ。

一般的な日本語能力試験に沿った内容が基本だが、クロが取得を目指す特定技能の対策講義も必要であれば作ってもらえるそうだ。

学校を辞めて時間があるクロは、一日の勉強時間を増やすことで一般的に必要とされている期間よりも早く授業を終えることができる。

そのレッスンは動画とWebページで構成されているため、自分のペースで進めることができる。

クロの求める勉強スタイルに最適だったというわけだ。

 

着実に前に進んでいるクロが誇らしく、素直に嬉しかった。

けれど同時に、私にも頼ってほしいというエゴが心の奥底で顔を出した。

私も、自分の足で立てるようにならないと。

 

 

キッチンで料理をしながら、クロが日本語を話している。

「君はめんどくさい女だけど〜、優しい心を持ってる。毎日スペイン語助けてって、もうしんどい。勉強するなら、あの男の人はちょうど良いよね。クロは君のお父さんじゃないけど〜、まあ、頑張って。」

いや、流石にひどくないか?

 

あの男の人、というのは先日私にメッセージを送ってきた人のことだ。

メッセージを見て以来、クロの態度がおかしい。

そっけない。

 

しかしそれよりも。

私のことをそんな風に思っていたなんて。

最近の悲観的モードが輪をかけて、普通に悲しくなる。

 

表情を曇らせる私に気づいたクロが、

「冗談だよ〜!」

なんて言っているが、そうは思えない。

微塵も思っていないことは咄嗟に出てこないだろう。

自覚していなかったとしても、潜在的にそういう気持ちがあるのだろうと考えてしまう。

 

とにかくクロと一緒に痛くなくて、自室にこもって食事を摂った。

 

しばらくすると、私の機嫌を取るためかクロも部屋にやってきた。

 

私が怒ったりすると、こうして様子を見に来ることがこれまでにも多々あった。

毎回時間が経てば気分も落ち着くので特に引きずることはなかったが、今回は相手をする気になれない。

私の気を引こうとしているように見えて、尚更腹が立った。

いや、怒っていると言うより、呆れているのかもしれない。

 

怒ってる?と私の表情を探るように見てくるクロを、冷たい態度であしらった。

喧嘩をしたいわけじゃない。

 

しばらくそんな態度をとっていると、今はそっとしておくほうが良いと思ったのかようやくクロが部屋を去る。

クロがいた場所にメモが残されていた。

 

「ごめん。くろはやばいひと。くろのづょだんはまずい。くろがんばります。それだから、しあわせしよう!」

 

まだ平仮名を覚えたばかりで、ぎこちない言葉たち。

それがかえって健気に見えて、さっきまでの不機嫌はどこかに行ってしまった。

 

ああ、単純だなあ、私。

こんなに簡単に機嫌をとられるなんて。

 

でも、そうやって一喜一憂してしまう自分も、何だか嫌いになれなかった。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。