4人目
それもまた突然だった。
大家さんから連絡があり、今日の夕方に男の子が一人下見に来るから、家にいたら鍵を開けてくれないかとのことだった。
私がその通知に気づくよりも前にクロが部屋に押しかけてきた。
メッセージを確認した時には、クロがすでに大家さんに返信した後だった。
「俺が案内する。部屋を気に入らないように、ネガティブキャンペーンをするんだ。いっそのこと、今から部屋を散らかしておこうか。」
私たちのpisoの最後の空き部屋は、今や物置部屋と化していた。
潔癖症のクロが机やら椅子やらを買い替えたため、元々備わっていたものが無惨に敷き詰められているのがその部屋だった。
私が下見をする側なら、後で片付けると言われても遠慮するだろう。
そもそも一番狭くて日当たりも悪いから、誰にも選ばれず残っていたのだ。
それでもクロは、1%の可能性も潰しておきたいらしく、あえて物を乱雑に置き直したり部屋を閉めて埃っぽい空間演出に取り掛かり始めた。
それを見ながら、他人事のように笑いが込み上げてきた。
あまりにも真剣だったので、なんだかおかしかったのだ。
「それから、君は内覧の間部屋から出てきたらだめだよ。可愛い女の子が住んでいるなんて知られたら、男どもはその気になっちゃうからね。」
私はチワワかなんかだろうか。
冗談かと思っていたら、その後念を押すように何度も言われたので、どうやら本気らしい。
「シャワー浴びようと思ってたけど後にしよう。ボサボサ頭で、やばいやつだと思わせれば住みたくなくなるだろう。質問にもぶっきらぼうに答えて、5分で終わらせるよ。」
pisoのネガティブキャンペーンのためなら体も張るらしい。
クロの必死な様子をあたたかく見守りながら、私はおとなしく部屋に篭ることにした。
そして、決行の時がきた。
言われた通り部屋でおとなしくしている私には姿が見えないが、話し声が聞こえる。
下見にきた彼は2、3ほど質問をしたように思う。
実際には、5分もかからず彼は退場した。
終わりを知らせに扉を開けにきたクロは、勝利の笑みを浮かべている。
まあ、無理もないだろう。
実際条件が良いとはいえない要素は初めからいくつもあった。
しかし、勝利の笑みは長くは続かなかった。
戦いはまだ終わっていなかったのだ。
そいつがダメなら、とでも言うように大谷さんから連日内覧の連絡がくるようになったのだ。
しかし自身で案内する気はさらさらないらしく、私たちの都合のつく時間帯を訪ねてきた。
自分で案内すれば全力でネガティブキャンペーンができるから、という理由でその後もクロは案内役を買って出た。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。