大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

対抗策

 

 

内覧者が後をたたない様子を見かねて、クロは大家さんと直接話をすると言った。

彼の主張をまとめるとこうだ。

 

そもそも他人と共同生活をすることが苦手なクロにとって、気の許せない人と暮らすことは耐えられない。

おそらく大家はお金を欲しがっているので、もう一部屋分を支払いさえすれば新しく誰かを居住させる必要はないはず。

一室分の家賃を折半するのはどうか。

 

推測は高確率で正解だろう。

しかし、私にしてみれば何もこちらから急いで話をつける必要はないのでは、と急ぐ理由はわからなかった。

内覧が続き対応に追われるのは煩わしいが、なかなか入居者が決まらなければ大家さんは諦めるかもしれないし。

 

ただクロは直接聞くのが早いの一点張りで、すぐにメッセージを送信した。

 

私の思考回路は日本人的なのかなあ、とふと思った。

問題が発生してもしばらく様子を見て何も行動は起こさない。

それが功を奏することもあるだろう。

しかし別の価値観を持つものからすれば待つ時間が惜しいのかもしれない。

 

そんなことをぼうっと考えているうちに大家さんから返信が届いた。

 

結局クロの予想通りで、家賃さえ手に入れば大家側としてはどんな形でも良いらしい。

それに、広告を出し入居希望者と連絡を取ったりするのも煩わしかったので、なんなら入居者なしで家賃だけ手に入る方がありがたいとのことだった。

 

それはそうだろう。

今のpisoは電気代と水道代が月々の家賃に含まれているため、大家側の負担となっている。

人が増えれば使用量が増えるが、その出費も抑えられるのだ。

うまい話だろう。

 

つまるところ、クロと大家さんの利害が一致したというわけだ。

後はお金の問題だけ。

 

以前3人目の入居者が来たときのクロの様子を直接見た私からすれば、別の入居者を受け入れるくらいならお金を払った方がマシだ、と考えるだろうことは容易に想像できた。

 

そうなると、クロ一人でもう一室分を支払うか、私と折半するかだ。

(もう一人の同居人にも事情を話したが当然支払いは拒否された。)

 

「君は、どうしたい?もう一人よくわからない男が来ても良い?」

と、私からすると誘導尋問のような言葉を吐いて真剣にこちらの様子を窺われている。

 

正直、昨日の今日では自分の意見は固まっていなかった。

 

お金のことを抜きにして考えれば、人は増えないに越したことはない。

人が増えると生活に制限が増えるのは事実だ。

例えば、使いたい時に風呂場やトイレが使えない確率が上がるとか。

スペースもそうだ。

 

それに、入居者は男。

男の人3人に囲まれて暮らすのは確実に肩身が狭いだろう。

こだわりが強くないために適応能力が高いことは自負しているが、想像しただけで空気が薄くなったように感じた。

 

「他の家を探すってのはどうなん?今より条件良いとことか。」

そもそも今のpisoでないといけない理由はない。

 

しかし、

「契約期間がまだ残ってるから、その期間分結局支払わないといけないから余計にお金がかかるよ。それに、電気代が高いこの国で電気代込みでこの値段の家ってなかなかないよ。一室分追加で払ったとしても今の家のほうが安く済むよ。」

と言われて返す言葉がなかった。

 

「水道代、電気代はスペイン来てから自分で払ったことないから頭になかったわ。確かに高いって言うもんな。」

 

その後大体の相場を聞いてみたが、二人暮らしなら月に1万はくだらないらしい。

確かに高い。

 

その後物件サイトもちらっと見てみたが、クロの言う通り今のpisoで追加で払うほうがお手頃だった。

 

 

「せっかく多く払うんだし、この冬は暖房使い放題だね!」

と、不安から解放されたクロは嬉しそうに両腕を上げて喜びを示していた。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。