心配性
少しずつ冷静さを取り戻したのか、クロがポツリと言った。
「近い間柄の人に対して、過剰に心配してしまうことがあるんだ。自分でも良くないと思ってる。直したいんだ。」
私はクロがやっと何事も跳ね返す話を聞かないモードの武装を解いたことに少しホッとした。
長い足を窮屈そうに折りたたんで体育座りをしているクロは、普段の体格の良さを忘れさせるくらい小さく見えた。
私の気持ちを慮らないような態度に対する怒りが、少しずつ解けていく。
方向性に難点はあるものの、これは正真正銘の嫉妬なのではないだろうか。
私に男の影が見えて、焦ったのかもしれない。
好ましくない状況なのに、何もできない自分の立場が歯痒くて。
結果、気持ちがこじれて態度に現れる。
もしもそうなら、私と同じだ。
確証が得られないから不安になって。
縛り付けておけないから不安になって。
そんな自分が時に滑稽で。
近いのに遠く感じる距離がもどかしくて。
同じ気持ちかもしれない、という考えが場にそぐわず私を慰めた。
私も少し拗らせてしまっているのかもしれない。
嬉しい、だなんて。
これまでは、この状況がもどかしかった。
出口はすぐそこに見えているのに、自ら逆方向に進むようで。
いつまでたっても終わらないような気がして。
けれども人間というのは不思議なもので。
痛みも何度か味わえば徐々に慣れていくものらしい。
今の私なら、この理不尽な迷路を楽しめそうな気がした。
何度もぶつかって、また立ち上がって。
たまに足を止めてしまうことがあっても。
一人で迷っているわけじゃないなら。
とまあ、こんなことは前にも思ったような気がするけれど。
きっと私たちは二人ともちょっと不器用なんだろう。
不器用なりに、遠回りをしたっていいよ。
たまに悲しいラブソングを聴いて感傷に浸れば、また起き上がれるから。
この奇妙な恋の物語を、私はそう簡単に諦めるつもりはないよ。
それが愛の物語になるまで。
うむ。
こうしてポエムっぽく書き記せば、他人事みたいだな。
次の日、なんだか気まずいような気持ちを抱えていたのはきっとお互い様だったけれど。
やっぱり空いた距離をもう一度詰めてくるのはクロからだった。
無言で私の部屋に入ってきたかと思えば、手にバリカンを持っている。
どうやら、伸びた襟足を剃れということらしい。
おぼっちゃまかよ、と言いたくなる横暴な態度に吹き出してしまう。
クロのこういうところに、いつも救われているなあ。
そう思いながら、襟足のみならず頭部を除く上半身の毛を全て剃ってやった。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。