狸寝入り
「行かない理由が俺に気を遣うからならその判断はやめてほしい。俺のことは一切気にしなくていいから。」
「いや、だからそもそもそんなこと言ってないし。なんならごめんやけど微塵も考えへんかったわ。私の話聞いてなかったやろ。」
「聞いてたよ。だから、こう言ってるんだ。君の方こそ俺の話聞いてないよ。」
ただ年末の過ごし方について聞いただけなのに。
いつの間にか話がこじれ、こんなやりとりを何度もした。
時には笑けてきて、なんでこうも意地を張っているのかおかしくてたまらなかった。
ただ、私が気に入らないのは「俺のせいでってのは考えないで」というセリフ。
なんか私がクロにめちゃめちゃ依存してるみたいで嫌なんですけど。
もしもクロが私のことを自分に依存している女だと認識しているのだとしたら、好ましくないことこの上ない。
次第に腹が立ってきて、話しても埒があかないのでリビングを後にした。
黒よりも先に部屋を出て、クロのベッドに寝そべってやる。
後から追いついたクロがブーブー言っているが、知ったこっちゃない。
こちとらへそを曲げたんだ。
いつも私が折れてやっているんだから今回は譲ってやらん。
そんな気持ちで本格的に寝る姿勢に入った。
何度も私をどかそうとするも、良い反応が見られないことに耐えかね
「ごめ〜ん」
という声が聞こえた。
「早く寝たいから言ってるだけやろ!適当に言ってるやろ!」
と昼ドラみたいな吐き台詞を飛ばす。
その後もぷんぷんへそ曲げてますよオーラを出していると、一向に効果がないことで諦めたクロがパソコンを起動し始めた。
このままこのベッドで寝てやってもいいのだが。
実のところ、特別何かに腹を立てているわけではない。
なんならクロに非があるわけでもないし。
お互い様。
ただ、自分がうまくスペイン語を使いこなせないフラストレーションをぶつけているだけなのだ。
流石にこれ以上クロを苦しめるのは筋違いかな、と思って大人しく自分の部屋に戻ることにした。
自分の部屋で電気を消し布団に潜った後で、クロが
「おやすみ」
とだけ言いにきた。
「ふん!」
と大声で最後の子供染みた駄々をこねると、電気をつけて枕元にやって来た。
「ほんとたまごっちみたいだね君は。ご飯くれ〜怒ってる〜って。それかポケモン。」
そういう目元は垂れ下がっていて、口角も上がっていた。
クロの機嫌は上々のようだ。
ふむ。
くるしゅうない。
まあ、大人な私が円滑な仲直りのためにわざわざ一芝居を打った甲斐があったというものだ。
…ということにしておこう。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。