大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

コンプレックス

 

コンプレックスなんてものは、誰にでもあると思う。

 

私にもいくつかあるが、その一つが唇だ。

 

元々全身どこをとっても血色が良い方ではなく、唇も綺麗な血色ピンクとはほど遠い。

血色の良い唇に憧れて口紅を多重に塗り込んでは、色素沈着するという悪循環。

 

そもそものきっかけは、誰かの何気ない一言だったと思う。

「唇の色、悪いよな。」

私を貶めるつもりでも、嫌味でもなかったと思う。

ただ、思ったから言っただけ。

その人にとっては、きっとそれだけだったのだけれど、その瞬間から私の唇はコンプレックスになった。

 

自覚というのは怖いもので、一度視界に入ってしまうと、それからはもう気になって仕方がないのだ。

そして、隠そうとすればするほど浮き彫りになってしまうもの。

 

コンプレックスを他人に指摘された回数は少なくない。

何事もないように笑っていなす度に、私の心はボロボロになっていた。

 

 

そんな私の唇を愛おしそうに眺めて、大切なものに触れるかのようにふちをなぞって。

「君の唇が本当に好きだ。少し日焼けしたような色が、セクシーで目が離せなくなる。」

クロはそんなことを言う。

「それ、私のコンプレックスやねん。」

というと、心底驚いたように目を丸くする。

俺には魅力的にしか見えないよ、とそのまま口付けられた。

 

またある日には、気にしているお腹の肉をつままれた。

できることなら気づかないで欲しかった、隠したい部位である。

後ろめたい気持ちになって、思わずしかめ面を彼に向ける。

「見んといてほしいし、触るのもやめてよー。」

「なんで?」

「お肉あるんやで?恥ずかしいやん。」

「俺はこれが大好きなんだけど。」

「いやや、削ぎ落としたい。」

「え〜だめ。今のままで完璧だよ。」

彼はいたって真剣で、お世辞を言っているようには見えない。

その表情から発せられる言葉には、特別な力が備わっているらしい。

 

たった一言で、嫌いだった自分の一部が宝物になるの魔法にかけられる。

そんな不思議な力。

クロは私だけの魔法使いなのかもしれない。

 

それとも、私が彼に魔法をかけたのかも。

私が、彼にとってだけ、とびきり魅力的な女性に見えるように。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

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