秘密
お互いの気持ちが分かってから、クロは二人きりの時にとことん甘えてくるようになった。
時には、もう一人の同居人がいない隙を狙ってこっそりちょっかいを出してきたりもする。
ある時は、私がソファに腰掛けているときに、足元が見えないのを良いことに靴を履く過程で触れてきたり。
キッチンで二人きりになった瞬間にキスしてきたり。
私の毎日は突如クロとの生活に変わった。
もちろんこれまでも同居人として一緒に暮らしてはいたけれど。
毎日隣にクロの体温を感じることはなかった。
私を見つめる瞳も、これまでとは違う。
今までに見ていた笑顔も好きだけれど、私を見つめる時のそれは今では別物だ。
見たこともないような優しい表情。
限界まで下がった目尻と、真っ直ぐに私を見つめる少し緑がかった綺麗な瞳。
見ているこっちの心まで溶かされそうに甘い。
私だけに向けられるその表情が、たまらなく愛おしくて。
目が合うたびに、彼も同じ気持ちなのだと知れるから。
言葉はいらない。
そんな甘い日々がとてつもなく幸せで。
少し前の自分なら微塵も想像しなかったであろう未来が今ここにある。
誰かを好きになったことは過去にもある。
想いを伝えずに終わった恋も、叶った恋もある。
けれども、誰かと一緒にいてこんなにも幸せを感じられたことは初めてだ。
そして相手も同じ気持ちだと伝えてくれるなんて、幸せ以外の何者だろうか。
それでも、秘密にすることはどこか切ない気持ちがあった。
隠さないといけない、ということにいい気持ちはしない。
その反面、公の場と二人きりの時とのギャップを楽しんでいる自分もいた。
もう一人の同居人が部屋に寝入ってからこっそり繋ぐ手や、隠れて触れ合う秘密の逢瀬。
隠された恋は蜜の味なんて誰かが言ってたっけ。
学生の頃に同級生に隠れて付き合うような甘酸っぱい気持ちと、二人になった時だけに感じる熱がなんとも甘くて艶やかな味がした。
とびきり熱くて、癖になりそうだ。
それでも、普通の恋人同士のように手を繋いでお出かけをしたり、堂々と街中を歩きたいという願望もどこかにあった。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。