出不精
クロは出不精だ。
自他ともに認めるインドア人間である。
好きなものは家で一人でできるものがほとんど。
例えばアニメを見たり、アニメを見たり。
おかげで今日もまた彼のおすすめのアニメを夜中に見せられているわけだが。
特段嫌な気もせず、これはこれで楽しんでいる。
それに加えて、治安を重要視する彼は夜中に出歩きたがらない。
日本に住みたい理由の一つも治安面だ。
ある時買い物帰りに寄り道して帰りたいと言ったら、危険だと言われてるゾーンだからと止められて私がしょげたことがある。
まあ、何か起こってからでは遅いし。
身の安全に変えられるものはないのでクロは間違っていないのだけれど。
右も左も知らないことばかりの私にとっては、冒険の道を閉ざされたようでちょっぴり寂しかった。
もう一人の同居人である女の子も、クロの出不精をよく理解していた。
ある日彼女と買い物をしている時の会話だ。
「今度のnoche en blanco、クロは渋ってたけど、絶対行くべきやで。」
noche en blancoとは私たちの住む地域の催し物で、直訳すると白い夜。
具体的には、歴史的建造物や美術館などに夜訪れることができる。
言葉通り、夜中も白い光に町が包まれるわけだ。
その日は普段とは違った街の雰囲気を味わえて、しかも入場は基本無料で必見だそうだ。
私は興味津々だし、もちろん行くつもりだった。
しかし出不精で治安が大事なクロには、惹かれる要素がなさそうである。
ただ、二人で出かけられたらいいなあという淡い期待はあった。
ルームシェアをしているので毎日顔を合わせるけれど、二人で出かけたことはまだ数えるくらいしかない。
お互いの気持ちがわかってからは初めてのお出かけになるだろう。
ちゃんとしたデート。
おめかしして、クロと出かけられたら楽しいだろうなあとは思うけれど。
「クロが乗り気じゃなくても、行こうって言ってみいや。」
彼女は続ける。
「世の中にはインドア派の人とアウトドア派な人がおるけど。クロは完全にインドア派やな。インドア派の人は一人の時間が大切で、外に出て活動的に過ごすと他の人よりも疲れやすいねん。アウトドアの人はその逆で、家におりすぎたら疲れてしまう。」
馴染み深い話だ。実際にそうだろう。
彼女は両方の素質を持ち合わせているらしく、どちらにも対応できるらしい。
なにそれ最強やん。
私はどうだろうか。
実際今も日本からはるばるスペインにやってきたり、行動力を周りに褒められることは多いけれど。
実際は大きな一歩には毎回反動が伴う。
例えば旅行をした後はしばらく家でぼーっとしていたい。
それに、毎日パーティという生活にも関心がない。
私も両方の素質を持っているのかもしれない。
その日家に帰ってクロに会った時、彼の機嫌が良いタイミングを見計らって打診してみた。
「ダメもとでお願いがあるんけど。」
「なに?」
ご機嫌な彼は今にも尻尾を振りそうな様子でこちらを見ている。
「今度のnoche en blanco行きたい。」
「いいよ。行く!」
笑顔でそう返ってきて少し面くらう。
「え、ほんまにいいん?」
あまりにもあっけなくOKが出たので、信じられず思わず聞き返す。
「うん、いいよ!」
相変わらずニコニコした顔でこちらを見ている。
え、いいんかい。
予想に反した反応に面食らった後、私とやからいいよってことかな、とか少し自惚れて。
私まで気分が良くなった。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。