準備
12月。
スペインの街はすっかりクリスマスモードだ。
きっと日本も今頃各地でイルミネーションが煌めいているのだろう。
「見て。」
夜ご飯を終えてベランダで一服しているクロにそう言われ外を見ると、ちょうど道路を彩る光の装飾が取り付けられているところだった。
「この家の前にもイルミネーションするんや!もうそんな時期かあ。中心地も見に行かなあかんわ。」
「もっといろんなイルミネーションがあるよ。魔法使いとか。ここにはなさそうだけど。」
「そんなんあるん?」
「あるよ。今度見に行こう。」
魔法使い、はサンタのことだったかもしれない。
どちらにせよ、初めてのスペインのイルミネーションだ。
そしてスペインでのクリスマスも当然初めて。
街並みの変化にともなって少しずつ実感が湧いてきて、胸がときめく。
しかもクロと一緒にイルミネーションを見に行けるなんて。
絶対楽しいだろうな。
気づけば笑顔になっていた。
とある日。
ご飯を食べながら話していたら、クロが言った。
「今日は、君への最初のプレゼントを探すよ。クリスマスの。」
「へ?」
あまりにも予想だにしない突然の出来事だったので、動揺してアホっぽい声が出た。
クロは丁寧に復唱してくれたが、聞き取れなかったわけではない。
まず、プレゼントをくれるつもりだということに驚いた。
そして、それを直接本人に宣言してくるあたりが面白かった。
けれど、
「最初のってどういうこと?」
「言葉通り。プレゼントはいくつかあるから。」
「なるほど。」
いや、なるほどじゃなくて。
そういうもんなのか?
そういえば、海外のクリスマスは数が大事で小さなプレゼントも含めて何個も用意するみたいなことを聞いたことがあるような。
はてなが浮かびまくる私を差し置いて、クロは嬉しそうに自分の部屋に戻っていた。
しばらくして、部屋から出てきたクロにスマホの画面を見せられた。
「リビングに置くクスマスツリーを買わなきゃいけないよ。これなんかどう?」
Amazonで調べていたらしい。
準備ばっちりやな。
見せてもらったツリーは可愛らしいサイズだ。
これなら邪魔にもならなさそうだし、雰囲気が出ていっか。
緑と白があったが、ぱっと見で惹かれた白を希望しておいた。
「よし。このツリーの下にプレゼントを置くんだよ。」
早速購入手続きを進めているクロは、かなり楽しそうだった。
イベントは全力で楽しむタイプなんやな。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。