連絡
いつの間にか夢について語り合っていたクロと私。
気づけば、また二人で笑い合っていた。
不思議だ。
離れているよりも、こうして笑い合っている方が心地良い。
友達だとか、恋人だとか、肩書きに縛られていたけれど。
そのどちらに当てはまらない関係があっても良いのかもしれない。
もちろん、私が傷つくような関係や我慢はしない。
クロにフラれた?というのに、むしろ晴れやかな気持ちで眠りについた。
次の日朝起きると、これまでと変わらないクロの笑顔が私を出迎えてくれた。
家に必要なものがあって、一緒に買い物に行くことになった。
スーパーの売り物でふざける私を見て、
「やめろ、可愛い」
とくしゃっと笑うクロ。
なるほど、可愛いは言うんだな。
私は、クロとの境界線を探していた。
「あ、まつ毛ついてる。」
思わずクロの顔に触れそうになり、はっと手を戻す。
それに気づいて、
「いいよ。俺は触られても平気だから。いつでもどこでも、好きに触っていいよ。」
と言われる。
なるほど、触るのもOK。
買い物をしていると、携帯の通知が鳴った。
とある男の人からだった。
彼とは3ヶ月ほど前に何度か会っていた。
言語交換アプリで出会い、食事に行ったのが始まり。
携帯や郵便局で問題があったときにも助けてもらった。
何度か会ううちに好意を寄せてくれたものの、私はそれに応えられず結局疎遠になっていた。
友達でいよう、と言ったきり向こうの態度がそっけなくなったのだ。
当然の反応なので特に気にしていなかったが、唐突に連絡が来たので驚いた。
メッセージの内容は、久しぶりに近況を知りたいからご飯にでも行かないか、というものだった。
クロにのめり込まないために、他の人とも会うべきだろうか。
タイミングも相まって、そう考えていたら、横にいたクロにも画面が見えたようだ。
何か言いたげに顔をしかめたけれど、特に何も言わなかった。
自分に口を出す権利はないと思ったのだろうか。
メッセージを売れた彼と異性として関係を深めたいとか、そんなことは考えていなかった。
ただ、外の世界を見た方が良いのかなという思い。
それと、以前彼の友達のお店で働かせてもらえるという話が出たので、それに興味があった。
気乗りはしないが、思い腰を上げなればならないのかな、というのが私の考えだった。
ひとまず簡単に返事をして、自分からは積極的に動かないようにした。
買い物を終えて、
「ご飯でも食べてく?」
とクロが提案した。
二人で外食するのはなんだかんだ初めてだった。
普段は家で食べることがほとんどだからだ。
クロとお出かけして、一緒に外でご飯を食べる。
それは、ずっと夢見ていたことだ。
こんな形で、あっけなく叶うなんて。
メニューが豊富だけれど安くて美味しくて、私もお気に入りのお店。
水よりもビールが安いので昼間から二人でビールを注文する贅沢を味わった。
たわいもない話をしながら、クロがふと
「左手、いっつもそうなってるよね。」
と言い自分の左手に注目する。
食べ物を運ばない利き手の反対側は、手持ち無沙汰ゆえか指を曲げて不思議な形で固まっていた。
自分のことなのに、知らなかった。
「食べるとき、いっつもそうなってるよ。」
とクロは言う。
私が知らないところで、私を見ていたクロがいることが何だか嬉しかった。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。