大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

お粥

 

やっぱり。

生理が始まった。

 

昨日の情緒不安定もきっと生理のせいに違いない。

 

元々生理痛はないタイプだ。

生理前は情緒が乱れたりとんでもなく眠たくなることはあっても、痛みに苦しめられることは思い返してもほとんどない。

 

しかし、季節の変わり目で自律神経が乱れたのか。

冷たくなった空気に体を冷やしてしまったのか。

 

思わず声が漏れるほどに痛い。

ふだん生理痛がない分、対処の仕方がとっさに分からずどうしようもなくベッドの上でうずくまった。

 

ひとまずロキソニンを飲んで眠ることにした。

 

夕方になっても部屋から出てこない私を不思議に思ったのだろう。

クロが部屋に入ってきた。

 

ベッドに横たわる私を見て、

「何か必要なものがあったら言って。」

と頭を撫でてくれた。

 

私が生理痛で起き上がれないことを伝えると、まずは水を持ってきてくれた。

 

お腹もそこまで空いていないけれど、薬を飲みたいし何か口に入れたほうが良いだろう。

 

クロが買ってくるよ、と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。

 

お粥を作ろうと考えていたのだが、

「しんどい時に手間をかけて料理しなくても、野菜のスープが売ってるよ。」

と言われたので、それに従うことにした。

 

クロを待つ間も、目を閉じて眠ろうとしてみたが、もう眠れなかった。

薬の効果が切れてまた痛みが出てきたので、『生理痛 ヨガ』で検索してできそうなものに取り掛かって気を紛らわせた。

 

一通りヨガをしてまた横になっていると、鍵が開く音がした。

クロが帰ってきたようだ。

その後、キッチンで物音がする。

 

しばらくすると、クロが部屋に入って来た。

手には、今温めたのであろうスープが掴まれている。

 

「あっためまでしてくれたん、ありがとう。」

 

一人だったら、痛みに悶えて食事を諦めていたかもしれない。

辛い時の優しさは何よりも染みるものだ。

 

私がスープを掬う隣で、何やら動画を検索している。

Dimashという歌手の音楽を聞かせてくれた。

 

男の人から発せられたとは思えない、綺麗で伸びやかな高音。

低音ももちろん迫力があり、思わず釘つけになるパフォーマンスだった。

おかげで、また痛みを忘れていた。

 

「買い物から何から、ありがとう。」

改めてお礼を伝えると、

「君が言っていた料理はうまく作れるかわからないし。もし失敗したらいけないから。でも、喜んでくれて良かった。」

 

確かにお粥の写真を見せはしたが。

説明の手助けに用いただけで、作ってもらうつもりはなかったのだ。

それでも、作る選択肢を浮かべてくれていたことに驚いた。

 

「うん。めっちゃ嬉しいよ。ありがとう。」

そう伝えると、嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

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体型

 

久々にお洒落をしたけれど、特に行き先は決まっていない。

 

せっかくなので、近所を散策でもしてみよう。

家の周りというのは、決まった道以外通らなくて案外未開拓だったりする。

 

Google mapに頼らずに、直感で右折と左折を繰り返す。

 

しばらく歩くと、可愛らしく飾られた住宅に出くわした。

家の主が手入れをしているのだろう。

目的は分からないが、写真を撮ってくださいと言わんばかりの気合いの入りようだった。

もちろんパシャリ。

 

可愛いおうち

 

一つひとつの置物に作り主の熱い心がこもっていそうだ。

なんだかあたたかい気持ちになるような空間だった。

 

 

家に帰ってから、ネットサーフィンをしていた。

画面の中の人たちはみんな着飾っていて、美しい。

引き締まった体。

女性らしい膨らみ。

 

なんだか。

急に悲しくなってきてしまった。

朝はあんなにご機嫌だったのに。

 

さして高くない控えめな身長。

それでも小柄な方ではなく、体重もそれなりにある。

胸元の脂肪は少ない方ではないが、カップ数に比べると主張しておらず少し寂しい。

一部の知り合いからは羨ましがられたこともあるが、それは脂肪を蓄えているというだけだ。

細身なのに出るところは出てる、漫画みたいな身体の人はごまんといる。

それに比べれば、なんとだらしない身体だろう。

 

自分を苦しめるような言葉がぐるぐると頭を駆け回り、埋め尽くす。

あ、だめだ。

そう思った頃にはもう遅くて、自ら負のスパイラルに身を投げてしまっていた。

 

考えまいとしてもなかなか元気が取り戻せない。

アニメを見ながらも心ここにあらずのくらい表情をした私に気づき、クロが頭を撫でてくれる。

理由はわからずとも、慰めようとしてくれたのだろうか。

 

「何があったんだい?」

そう聞かれ、私はさっきまで考えていたことを話した。

自分の体型に自信が持てない、と。

 

その告白を聞いたクロは心底驚いたような顔をしたので、私が驚いた。

「なんでそんなことを思うの?君はすっごくセクシーだよ。今朝の格好だって、スーパーセクシーだったよ。」

 

今朝の格好はニットにデニムだった。

特にどこかを露出したわけでもないし、何かが強調されるようなフォルムでもなかったはずだ。

一体どこがセクシーだったのか私には微塵も分からなかったが、クロは真剣だった。

 

「でも、くびれもないし…」

「細身が好きな人ももちろんいるだろうけど。細ければ良いってわけじゃないよ。何より君はまず完璧な顔だし。身体もそうだよ。世界中の男が君の虜になるよ。」

 

かなりクロの個人的趣向に基づいた主張ではあったが、私の機嫌を取り戻すには十分だった。

 

またしても私はクロに甘えて自分の機嫌をとってもらってしまったわけだが。

 

クロの一言であっという間に自信を取り戻せたように。

全ては考え方ひとつなのかもしれない。

私が私の身体を愛してあげなくてどうするんだ。

 

前にクロが言っていた、自分を愛するということ。

やっぱり、私はその方法を今身を持って学んでいるところなのだ。

 

ちょっとずつかもしれないけれど。

クロに助けてもらうことがまたあるだろうけれど。

 

少なくとも、数時間前よりは自分の身体が好きになれた。

 

 

 

 

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お洒落

 

クロと外にお出かけすることは、滅多にない。

 

そもそもクロがインドア派なこと、今日本への渡航に向けて節約中であることから外食の機会はゼロに近い。

 

一方、私は世界一周を試みたこともあり(コロナで中断したが)、アクティブな人間だと思われることが多い。

実際、旅行は好きだ。

 

しかし、何より極端な人間なのだ。

外に出るなら、いっそ国境をまたいで。

近場に出かけるくらいなら、いっそ出かけない方がいいかも。

そんな感じなのである。

どこかへ旅行に行くのなら、いっそ他のところにも足を運ぼう。

極端さとめんどくさがりが重なって、外出すらひとまとめにしたがるところがある。

 

まあ、つまるところ、ここ最近はあまり遠出をしていない。

とはいえ、ずっと家にこもってばかりいるとなんだかそわそわしてくるので、なんだかんだ家を出る機会は作っているのだが。

 

長々と言い訳がましい御宅を並べて何を言いたかったのかというと。

 

ちょっと買い物に行く、ということすらあえて行事に見立てておめかししよう、という思考に至ったのである。

めんどくさがりな私はスペインのラフさにかまけて、すっぴんでも外を歩ける肝っ玉を手に入れている。

ただ、体裁のためではなく、自分のテンションを上げるためにおめかしをしたい時だってある。

 

そんなわけで、私は特に予定もないけれどおめかしをした。

 

マスカラを塗ったのなんていつぶりだろうか。

念には念を押して大量に持ってきてしまった化粧品たち。

荷物になるので、使い切りたいのに出番がなくずっと眠っていた子たち。

お待たせ。

 

よし。

ひとしきり完成して鏡に映る自分を見ると。

不思議だ。

化粧をすると、気持ちが引き締まる。

何もしていない自分より明らかに強くなった自信のせいだろうか。

鏡に映る自分も無意識に口角を上げる。

しばらくしっかりと化粧をしていなかったので、珍しさからか余計にテンションが上がる。

 

一ヶ月くらい前に買ったのに一回もまだ着ていないピンクのスウェットに手を通す。

カラフルな服は無条件にテンションを上げてくれる。

 

すっかり満足のいく仕上がりになった私は、これみよがしにクロに見せつけに行く。

 

「可愛い!」

質問ではなく、意見の押し付けである。

 

クロは少し驚いたような顔をして、

「どこ行くの?すごく綺麗だけど。」

と言う。

 

おめかしをして自意識過剰モードに入った私には、お洒落をして他の男に会いに行く心配をしているように見えないでもない。

 

しかし、行き先は特に決めていなかった。

でもせっかくおしゃれしたし、スーパーだけじゃもったいないな。

とりあえず、溜まったゴミを捨てに行かないといけないことだけは決定事項だけれど。

 

「ゴミ捨てに行く。」

「そんなおしゃれして?」

「うん。可愛いよな!」

 

まあ、ゴミ捨てついでにお散歩でもしよう。

 

綺麗だと言われて上機嫌になった私は、今までで一番気分良くゴミ捨てに出かけた。

 

 

 

 

 

 

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ハンバーガー

 

その日のクロはご機嫌だった。

 

ベッドに転がって携帯をいじっている私を邪魔しに来たのかと思えば、おもむろに指やお腹を噛まれる。

前からくすぐられたりすることはしょっちゅうだったが、噛まれるとは思っていなかった。

そもそも、潔癖症じゃなかったけか。

まあ、いい。

ご機嫌そうで何よりだ。

 

 

ご飯を食べた後、はち切れそうなお腹をさすっていたら

「ユウジ」

と勝手に名付けて撫でたりしている。

ちなみに、完全にアニメに影響された名前である。

 

 

買い物から帰ってきたクロは、お母さんに教えてもらったという代物をAmazonで注文しようとしていた。

水に入れるだけで味がつき、簡単に一日に必要な水分を摂取できるという粉だ。

カロリーや余計なものは含まれておらずビタミンがわずかに入っているだけなので、栄養バランスも問題ない。

 

「到着は来週?遅すぎるよ。その頃には、俺は日本にいて家庭を持ってるよ。君と7人の子供がいるね。」

きっと冗談なのだけれども。

またそんな冗談が聞けるようになったのが嬉しかった。

 

 

その日の夜ご飯は、ハンバーガーだった。

ふと思い立ったのか、クロが材料をスーパーで買い揃えてきたのだ。

 

部屋で転がっている私に

「行こう!」

と言ってお越し手を引いてリビングに連れていく。

 

テーブルには、美味しそうなハンバーガーが並んでいた。

 

「これクロが作ってくれたん?すごい!!ありがとう!」

 

私が作った料理をクロに分けることは何度かあったけれど、こうして正式に何かを作ってもらうのは多分初めてだった。

 

「たまごキングと、チキンクイーン。」

だそうだ。

 

鶏肉と豚肉、豪華な二本立て。

 

このためにせっせとお肉を焼いたり野菜を切る姿を想像すると、なんだか愛おしくなった。

 

「ほんまに美味しそう。ありがとう。いただきます!」

 

ちなみに、味もめちゃめちゃ美味しかった。

かなりボリューミーだったので、二人とも一つは次の日用に残しておいた。

 

クロ特製ハンバーガ



二人で膨れたお腹をさすりながら、お決まりのアニメタイムに突入した。

 

なんてことはない。

そんな平凡な日常を繰り返していく。

そうやって過ごせることが、今の私にはじゅうぶん幸せだと感じられた。

 

 

 

 

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心配性

 

少しずつ冷静さを取り戻したのか、クロがポツリと言った。

 

「近い間柄の人に対して、過剰に心配してしまうことがあるんだ。自分でも良くないと思ってる。直したいんだ。」

 

私はクロがやっと何事も跳ね返す話を聞かないモードの武装を解いたことに少しホッとした。

 

長い足を窮屈そうに折りたたんで体育座りをしているクロは、普段の体格の良さを忘れさせるくらい小さく見えた。

 

私の気持ちを慮らないような態度に対する怒りが、少しずつ解けていく。

 

方向性に難点はあるものの、これは正真正銘の嫉妬なのではないだろうか。

私に男の影が見えて、焦ったのかもしれない。

好ましくない状況なのに、何もできない自分の立場が歯痒くて。

結果、気持ちがこじれて態度に現れる。

 

もしもそうなら、私と同じだ。

 

確証が得られないから不安になって。

縛り付けておけないから不安になって。

そんな自分が時に滑稽で。

近いのに遠く感じる距離がもどかしくて。

 

同じ気持ちかもしれない、という考えが場にそぐわず私を慰めた。

私も少し拗らせてしまっているのかもしれない。

嬉しい、だなんて。

 

これまでは、この状況がもどかしかった。

出口はすぐそこに見えているのに、自ら逆方向に進むようで。

いつまでたっても終わらないような気がして。

 

けれども人間というのは不思議なもので。

痛みも何度か味わえば徐々に慣れていくものらしい。

 

今の私なら、この理不尽な迷路を楽しめそうな気がした。

 

何度もぶつかって、また立ち上がって。

たまに足を止めてしまうことがあっても。

 

一人で迷っているわけじゃないなら。

 

 

とまあ、こんなことは前にも思ったような気がするけれど。

 

きっと私たちは二人ともちょっと不器用なんだろう。

不器用なりに、遠回りをしたっていいよ。

 

たまに悲しいラブソングを聴いて感傷に浸れば、また起き上がれるから。

 

この奇妙な恋の物語を、私はそう簡単に諦めるつもりはないよ。

 

それが愛の物語になるまで。

 

うむ。

こうしてポエムっぽく書き記せば、他人事みたいだな。

 

 

 

 

次の日、なんだか気まずいような気持ちを抱えていたのはきっとお互い様だったけれど。

やっぱり空いた距離をもう一度詰めてくるのはクロからだった。

 

無言で私の部屋に入ってきたかと思えば、手にバリカンを持っている。

どうやら、伸びた襟足を剃れということらしい。

 

おぼっちゃまかよ、と言いたくなる横暴な態度に吹き出してしまう。

クロのこういうところに、いつも救われているなあ。

 

そう思いながら、襟足のみならず頭部を除く上半身の毛を全て剃ってやった。

 

 

 

 

 

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距離

 

 

「綺麗、だなんて。絶対君のこと狙ってるよ。」

 

そう言うクロは、なんだか目が潤んでいるようにも見えた。

いや、部屋が暗かったので私の思い違いかもしれない。

 

とにかく、切に訴えるような瞳に、庇護欲が湧いた。

咄嗟に言い訳をしなければならないような気持ちになる。

 

いや、落ち着け。

別に私は悪いことなんかしていない。

 

「前、もう友達だからって君は言ってたけど。向こうは絶対そう思ってないよ。君とどうにかなりたいって思ってるよ。」

 

いや、そんなことはないと思うけど。

 

まあ、でも確かに最後のメッセージは私から見ても奇妙だった。

一緒に出かける気持ちを削ぐには十分な威力だった。

 

「向こうがどう思ってるかはわからんけど、確かに変やなとは私も思ったよ。やからもう返事してないし。」

 

「とにかく、俺たち距離を置いたほうがいいと思うんだ。」

唐突に放たれた言葉に面食らう。

 

この衝撃は何度目だろうか。

 

「いや、なんでそうなるん。」

「誰かが君を好きなわけだろ。それなのに一緒に住んでるからって君と仲良くするのは罪悪感があるんだ。自分がされて嫌なことはしたくないんだ。君が逆の立場だったらどう思う?好きな男が、同居人とあまりにも仲良くしてたら。マッサージとか、触れたりとかしてたら。」

「もちろんいい気はせんけど…」

 

話が飛躍しすぎだ。

そもそも、彼が私を好きだという確証はないし。

 

というか、私たちの距離感が普通じゃないことは自覚あったんかい。

頭の中で思わずツッコミを入れる。

 

「もし仮に誰かが私のこと好きやったとしてさ、その人に悪いとかどうのの前にさ。私の気持ちは考えてくれへんの?私の気持ちは無視していいん?」

 

私がどんな気持ちでクロと一緒に暮らしていると思っているんだろう。

一時的に感情的になって言っているのだとしても、私の気持ちを踏み躙るような言葉に腹が立った。

 

「私は、クロと一緒に毎日楽しく暮らしたいねん。だからpisoの追加料金も払ったし。」

「俺だって今まで通り楽しく暮らせるならそうしたいよ。でも、君が望むならお互い干渉せずに別々の人生を歩んだっていいよ。」

 

前にも聞いたようなセリフだ。

今の私には、ただ拗ねて言っているようにしか思えない。

 

そんなこと、クロ自身も望んでなんかないくせに。

 

遠回りせずに、言えばいいのに。

他の男のことなんか見ずに、俺だけ見てくれって。

不安にならないくらい俺だけにしてくれてって。

 

その言葉さえもらえれば、私は喜んでそうするのに。

 

 

 

 

 

 

 

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態度

 

 

その日、日課のアニメを見る時間になってもクロの態度がおかしかった。

なんだかそっけない。

 

いつもならことあるごとに部屋に顔を出し、徐に私に構っては台風のように去っていくのにそれもなかった。

何か機嫌をくすねるようなことしたかな、と目新しい記憶を遡るも思い当たる節がない。

 

アニメを見るときは、いつも必ずクロは私を呼びに来る。

大抵晩御飯の後なので、呼びに来ないことを不思議に思いリビングに向かうと、ちゃっかりアニメを見ようとしているクロがいた。

 

「え?勝手に見ようとしてたん〜?」

と笑いながら問いかけても、ほぼ無視に近い反応しか返ってこない。

 

おかしい。

 

ひとまず、機嫌が悪いならそっとしておこう、と放っておくことにした。

 

「勝手に隣で一緒に見るもんねー」

というたまたま一緒に見てます風作戦は拒否されなかった。

無言は許可とみなそう。

 

アニメを見終わった後も、何も言わずに部屋に戻ろうとするので思わず引き止めた。

 

「私なんかした?なんかあかんことしたんやったらごめん。」

 

たった最近家賃を多く払ってでもこのpisoでの共同生活を続けると決めたのだ。

気まずい空気は、早めに解消しておきたい。

 

「あの人と見ればいいじゃん、アニメ。スペイン語も彼なら優しく教えてくれるかもね。」

ふい、とそっぽを向く。

 

ん?

 

「え、こないだ久しぶりに連絡きた人のこと言うてる?急になんで?」

「会うんでしょ?」

「?会わへんよ?」

「でも向こうの会おうってメッセージにいいよって返事してたじゃん。」

「それ先週のことやし。先週、空いてたらって言われたけど結局その後何も連絡なかったし。」

「でも、さっきまた連絡来てたよね。」

 

状況を整理しよう。

 

 

私には以前言語交換アプリを通して知り合った男の人の知り合いがいる。

彼とは数回会ったのち好意を打ち明けられ、友達としか接することができないと伝えてから疎遠になっていた。

 

しかし、最近数ヶ月ぶりに連絡が来たのだ。

仕事が落ち着いたので、久しぶりに近況報告がてらご飯にでも行かないかというお誘いだ。

彼と会うこと自体に気乗りはしなかったが、クロとの関係でいざこざしていたタイミングでもあったので、他の人と会うべきだろうかという思いでOKの返事をした。

それに、以前彼の友人のもとで働けるかもしれないという話があったのでその下心もあった。

 

ただ、そっけない私の返信で何かを悟ったのか、はたまた単純に都合がつかなかったのかは不明だがその後具体的な日程の提示などはなく一週間が過ぎた。

彼からの連絡がない、すなわち彼と出かける機会がなくなったことに何処か安堵している自分もいた。

 

一週間が経ち彼の存在を忘れかけた頃、新たなメッセージが届いた。

それはご飯のお誘いなどではなかった。

「新しいアイコンいいね。綺麗な建物だ。もちろん君も。」

日本語にするとサブイボがたちそうなキザなセリフだが、まあそんな内容だった。

 

そのメッセージのことを、クロは言っているのだ。

 

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

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