大阪人がスペインで愛を得る旅

ワーキングホリデービザでスペインの南の方に住んでいます。

虚無

 

なんとか震えを抑えて、絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「私は、そんなことできひん。何事もなかったように、これからクロに笑える気がせえへん。できることなら、もう明日から顔も見たくない。そうでもせな、気持ちは整理できひん。顔を合わせて、平気でおられへんに決まってるから。」

 

「もちろん、簡単じゃないことは分かってるよ。この後すぐにとか、そんなことを言うつもりはない。君の気持ちの整理ができたらでいい。急がないから。」

 

聞い覚えのある言葉、急がない。

クロはいつもそう言う。

自分の動揺に反してあまりに落ち着いて見えるクロが、気に入らない。

 

私ばっかり、いつも急いで空回り。

急かされたことなんてないのに。

自分だけ。

また私ばっかりの一方通行だったのかな。

 

「ここ最近の態度、例えばハグしたりとか。クロは、友達にもそう言うことするんかも知らんけど。私は違う。私は友達に料理作ってあげたり、ハグしたり、触ったりせえへん。」

「俺も、他の女友達にはそんなことしないよ。君が特別だから。それに、君も拒む素振りがなかったから。してもいいんだって思ってたけど…違うみたいだね。」

 

特別だなんて言われても、ちっとも嬉しくなかった。

だって、この特別の上にはもっと違うとびきりがある。

何にもなれない特別なんて、今の私には意味がない。

かえって苦しいだけだ。

 

「でも、恋人になる気はないんやろ?私からしたら、都合の良い女として扱われてるんかなって思う。」

「都合のいい女?そんなわけない。本当に君を粗末に扱うなら、本当の意味で手を出してるよ。でもそれはしてないだろ?キスだって、一緒に寝ることだって。」

「そういう問題じゃない。キスしてなくても、十分私の感情が動いてるねん。もしそれを分かってやってたなら、もてあそんでるって思ってまうよ。」

少しずつ悲しみの中に怒りが混ざり始める。

 

声を震わさて話す私。

向かいにいるクロは信じられない、という顔をしていて。

見たところ、本当に自覚がないのだろう。

それを天然でやっていたのなら、私にとっては余計タチが悪いけれど。

 

「とりあえず、分かった。ちょっと整理する。時間くれてありがとう。」

ぶっきらぼうにそう言って、自分の部屋に戻った。

頭を冷やす時間が必要だった。

 

当てつけるように音を立てて扉を閉めて、作り置きのご飯に手をつける。

 

悲しい。

こうなったのははじめてじゃないから。

何度繰り返しても結果は変わらない。

そう突きつけられたようで、虚しい。

 

 

 

 

「」=スペイン語

「」=日本語

で会話をしています。