ワンショット
少しは冷静になった頭で、もう一度クロと話をした。
まずは彼のビザについて。
日本に住むためにクロが検討しているビザは3つ。
1 ワーキングホリデービザ
2 学校卒業後に取得するビザ
3 配偶者ビザ
現在は2の取得を目指して学校に通っているわけだが、卒業後に日本で暮らす資金を蓄える必要があるだろうから、日本に行けるのは5年後とかになるだろうと言っていた。
通学の途中で一度ワーキングホリデービザを取得することも可能だが、こちらも同様に資金面で不安が生じている。
3は結婚相手さえ見つかれば他に何も必要ないが、相手にかなり依存するものであり、責任感の大きい選択肢でもある。
ただ、話を聞いている限りその全てに対して後ろ向きというか、不満があるようだった。
というか、文句を言って卑屈になっているようにも見える。
私には外資系の企業で働く友人がいて、その友人にもクロとの話を相談していた。
外国籍の同僚を持つ彼女なら、何か知っているかもと思ったのだ。
そして、クロにも彼女に聞いた話を伝えた。
「友達の知り合いでメキシコ人の人がいてるみたいやねんけど、初めはワーキングホリデービザとかで日本に来て英語教師して、その後会社の負担でビザ発行してもらってたみたいやで。そういう方法もあるみたい。」
「でもきっと、その人はビザに必要な肩書きをすでに持ってたからだよ。」
「別の人は、バーで友達の輪を広げて会社も紹介してもらって今働いてるみたいやで。」
「それは、その人の運が良かっただけだよ。すごくまれなケースだ。」
何だかむかついてきた。
「確かに、珍しいケースかも知らんけど。私が言いたいのは、いくらでも探せば方法は他にもあるんちゃうかってことやよ。調べ尽くしたって言ってたけど、実際まだ日本に来たこともないわけやん。まだまだ知らん可能性があると私は思うよ。」
「そういうレアケースもあるかもしれないけど、1/10000000とかの確率だ。俺にはあり得ないね。」
「なんでそんなに否定的なん!」
あまりにも話を聞かない頑固さに、思わず声が大きくなった。
二人の関係がどうとか以前に、この頑なに自分の考えに固執する目の前の大きな子供をどうにかしたい。
そんな感情になった。
「俺には弾一発しか残されてないんだ。」
そう放つ彼の表情が歪んだのが分かって、
ああ、彼は今狭くて暗い部屋に閉じ込められている気分なのかもな。
と思った。
私にも経験がある。
全ての選択肢が絶望的なものに思えて、進む道を完全に塞がれたような感覚。
けれど、ある日、地下に続く通路を自分で塞いでいたことに気づく。
私は今、そんな状態のクロを見て、下も見てごらんと言いたくなった。
もしくは、周りの壁を飛び越える羽をあげたっていい。
だから、こっちに気づいて。
私の声に耳を傾けて。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。