ヘアスタイル
クロが散髪に行く。
今の髪型を整えるだけにするか、新しいスタイルに挑戦するか。
決定権は私にあるとのことだったので、私は挑戦に一票を投じた。
「見たことないから、見てみたい。」
その私の鶴の一声で、クロの方向性が決定した。
早速電話をして空きを確認し、1時間もたたない枠で時間が取れたらしい。
新しい髪型、どんなんやろか。
ちょっとした好奇心と共に、ニュークロの帰りを待った。
しばらくして、クロが帰ってきたのが玄関を開ける音で分かった。
クロのことだから、すぐに見せびらかしに部屋にやってくるだろう。
いつもの習性からそう推測して、あえて私からは出迎えなかった。
ただ、しばらくしてもやってくる気配がない。
何なら、一目散に洗面所に入ったきり数十分出てこない。
お腹でも壊したのだろうか、と思ってそっとしておいた。
さらに時間が経ち、部屋着に着替えたクロがひっそりと部屋に入ってきた。
見るからにしょぼくれている。
元気がない。
「俺は、はげになった…」
と俯きながら、トボトボと。
もちろん本当のおはげ様には失礼なくらい、ちゃんと生えている。
ただ言わんとしていることは何となく分かった。
完全に、思っていたような髪型にならなかったのだろう。
完成形をうまく思い描けていなかった私にも、これではないな、と言うことは容易理解できた。
かなり短く、さっぱりしている。
似合わないわけではないけれど、クロの理想とするスタイルとは完全に異なっている。
クロの新しい髪型がどうのというよりも、意気消沈している姿がかわいそうで可愛くて思わず笑いが込み上げてきた。
堪えられず笑い声を上げると、
「何笑う。」
とさらにヘソを曲げてしまった。
「俺は、木だ。風に揺られた木。」
そう言って、自虐ネタを繰り広げられる。
今の私には、そんなしょぼくれた姿さえもおかしく映ってしまって、とうとうお腹を抱えて笑った。
「良いやん。それに、髪の毛なんてすぐに伸びるよ。」
「あの美容師は俺の髪を切ったんじゃない。パーソナリティを傷つけたんだ‥」
何とかなだめるも、そこからしばらくクロの自虐ギャグは続き、その度に私はお腹を抱えて笑ってしまう羽目になった。
トボトボと部屋に帰ったクロの様子を伺いに部屋を覗くと、まだしょんぼりした空気をまとっていた。
「ご飯作ったろか?」
というと、少しばかり嬉しそうに顔を上げてこちらを見た。
しばらくじっと見つめていると、立ち上がったクロに鼻を噛まれる。
キスをされるのかと思ってドギマギしたぞ、と心臓を落ち着けていると今度は肩を噛まれた。
「俺は犬だから、君を綺麗にしてるんだよ。」
木から、今度は犬になったらしい。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。