Noche en blanco
私はその日をずっと心待ちにしていた。
なんてったって、出不精なクロが私とお出かけしてくれる最高の一日だ。
その日の夜はセビージャの美術館や多くの建物が無料で訪問することができ、美術館好きの私にとっては行かない理由がないイベントだった。
直前までクロは渋っていたが、夜の街に私を一人で出歩かせるわけには行かないし、と口をやや尖らせながらも結局了承してくれていた。
久しぶりのメイクも、事前にYouTubeでリサーチ済み。
KIKOで買ったブルーのアイライナーを使ってみよう。
今日はそこまで寒くないし、長袖じゃなくても良さそうだ。
お気に入りの緑のワンピースにしよう。
先に洗面台でメイクをしているとクロがやって来た。
何工程もある化粧を見て、一般的な男子の反応をする。
「もうちょっとで終わるから。」
動画で予習済みだったメイクだけれど、いざ自分でしてみるとなんだかしっくりこない。
アイライナーが強調されすぎているような気がする。
「ちょっと、変じゃない?」
とクロに聞いてみた。
「どれどれ…」
膝をかがめて私の目線に合わせてまじまじと見られる。
「そうかな。俺はいいと思うけど。」
「そう?じゃあいいか。時間もないし。」
どうせ外は暗いし、よく見えんだろう。
クロがいいと言ってるし、まあいいか。
ワンピースに着替えて玄関に向かうと、クロが靴を履いているところだった。
「うわお、すごい。」
抽象的な褒め言葉にもやっとする。
もっとないんかい。
次は髪型だ。
おろすか、ハーフアップにするか。
ワンピースは肩にボリュームのあるデザインなので、おろすと肩周りがうるさい気もする。
「髪型、どっちがいいと思う?」
クロの方を振り向くと、気のせいか、見惚れている、ような気がした。
少しの間が空いて、クロが答える。
「どっちもいいと思うよ。でも、強いていうなら俺はおろしてる方が好きかな。」
なるほど。
でもやっぱり肩のボリュームが気になるのでハーフアップで。
聞いといて言うことを聞かない典型的な嫌な女かよ。
家を出てからの道のりも、微妙な距離感が私たちの間にはあった。
手を繋いでこない。
また昨日の黒いもやが私のもとに舞い戻ってくる。
クロは、何を考えているんだろう。
そんなことを悶々と考えながら、歩みを進めた。
しばらくして、クロが口を開く。
「俺たちの関係についてどう考えてる?」
あまりの衝撃に、思わず聞き返してしまった。
だって、私もその質問をずっとしようと思っていたのだ。
※「」=スペイン語
「」=日本語
で会話をしています。